「タンタル固体電解コンデンサの最新技術動向」
 
1.135℃対応高信頼性樹脂モールドシリーズ
 

 自動車に搭載される電子制御システムは、近年カーエレクトロニクスの著しい進歩により、高機能化/多機能化が進んでいる。また、環境性能を向上させるため、制御技術の向上とともにこれを実現する機器には省スペース化や軽量化が求められている。回路基板の増大に伴うスペースの制約や、ワイヤーハーネス削減による軽量化を目的に、回路基板がエンジンルーム内やエンジンへの直付け等、より過酷な温度環境に搭載されるケースが増えており、実装される電子部品には小形/高機能とともに高温度での耐用度向上が望まれている。
 当社の「135℃対応高信頼性樹脂モールドシリーズ」はこうした市場ニーズに応え、従来の−55〜+125℃の温度範囲を超える−55℃〜+135℃の範囲でも安定した電気特性を有するデバイスとして商品化した。

 一般的にコンデンサは高温度になると、誘電体を通過する漏れ電流が大きくなる。
また、タンタル固体電解コンデンサでは、外装材であるモールド樹脂の熱膨張によって内部素子にストレスを受け、誘電体が損傷した場合、損傷部には更に大きな漏れ電流が流れ、ジュール熱により誘電体が劣化し漏れ電流が時間と共に増大していくことがある。
 一方、ESR(等価直列抵抗:Equivalent Series Resistance)の特性変化を考えると、高温度雰囲気では図1-1に示す各構成材料の熱膨張係数の違いによりひずみが生じ、各層の密着性悪化により劣化しやすくなる。

 前述の ①漏れ電流特性劣化 ②ESR特性劣化 の2点の問題について一般的な対応方法を説明する。
高温度雰囲気における漏れ電流の特性劣化に対しては、一般的には高温度雰囲気での漏れ電流の絶対値を下げる為に、誘電体の物理的な厚みを増し、高温度対応品としている。 「誘電体厚みを増す」という手法を用いると容量が下がる為、従来と同じTa粉末を使用することを前提とした場合、同サイズでは低容量、あるいは低電圧のラインアップになってしまう。また従来品と同一定格を実現しようとすると、Ta粉末の重量を増やす必要があり、ケースサイズが大きくなってしまう。
ESRの特性劣化に対しては、150℃を超える領域でなければ従来品と同様の材料構成で対応できるが、特に陰極引出し層となるMnO2/カーボン/銀の各層の密着性、及び、内部素子/導電性接着材/リードフレームの接続状態を従来品よりも安定したレベルでの管理が必要となる。150℃を超える高温対応品は各社対応方法が異なるが、電極メッキ材を変更して対応するケースが多い。

 当社では125℃を超える高温度対応品を検討する際、ターゲットとなる主要アプリケーションであるエンジンルームやヘッドライト周辺環境が実質125℃の温度環境に近づいており、「125℃に対してのマージンがあればいいこと」及び、「従来品(125℃対応品)と同様の材料構成、同様のシリーズラインアップでの対応」を考慮して10℃の余裕をもたせた135℃対応をターゲットと決め、開発を開始した。

 先ず、高温度域で漏れ電流が増加する要因となるモールド樹脂の熱収縮について、実際の影響度を確認した。従来品とフィラー含有率を向上させた低応力樹脂適用品との高温度域における漏れ電流の温度特性を比較した結果を図1-2に示す。低応力樹脂適用品の方が、高温度域での漏れ電流の上昇度合いが小さいことがわかる。次に、誘電体の絶縁特性は不純物濃度の影響を受ける為、材料メーカーと共同開発した低不純物濃度Ta粉末を使用した素子に対して、社内で更に不純物濃度低減処理を行い、所定の工程フローで製品化し、高温度域における漏れ電流の温度特性を従来品と比較した結果を図1-2に示す。不純物濃度低減品の高温度域における漏れ電流の上昇幅が、従来品と比較して軽減されていることがわかる。得られた基礎データから、不純物濃度低減素子とフィラー量を従来品より増量した低応力樹脂を用い、更に、モールド樹脂の応力に対して保護層となるMnO2層とカーボン層のベース厚みを従来品より増し、且つ密着性を改善させた条件を適用した試作品を作製し、従来品との信頼性試験比較を行った。135℃における耐久性試験の結果を図1-3に示す。従来品では1000時間辺りで漏れ電流が上昇するものがあるのに対し、試作品では2000時間でも安定していることが判明した。

 同手法を展開し、高信頼性F97 135℃品のシリーズをラインアップした。今後、需要が広がると考えられる同市場では高温度化は150℃程度までのニーズ拡大が予想される為、同様の考え方で極力135℃品と同等のラインアップを保ちつつ、高温度150℃対応品を開発中である。

【図1-1.樹脂モールド品の構造】
図1-1
【図1-2.Bケース代表定格のモールド樹脂の熱収縮に対する影響度及びタンタル素子中の不純物濃度の影響度】
図1-2

同一定格で各5pcs測定。誘電体が劣化方向に進まない様に、125℃、150℃では印加電圧を軽減し比較。
①25℃ :定格電圧印加
②85℃ :定格電圧印加
③125℃:2/3×定格電圧印加
④150℃:1/2×定格電圧印加

【図1-3.Bケース代表定格耐久性試験 135℃-2/3RV (n=10平均値)】
図1-3
2.安全機構付きタンタル固体電解コンデンサ

 民生機器分野ではスマートフォンやタブレットPCに代表される小形/高機能モバイル端末の普及が爆発的に進み、搭載されるコンデンサにも小形/大容量が要求され、単位体積当たりの収納容量に優れるタンタル固体電解コンデンサを使用されるケースが多い。その中でも携帯電話や携帯ゲーム機等、人体の近傍で使用されるセットでは、安全性を向上させたタンタル固体電解コンデンサが望まれている。また、産業機器/車載分野においても、温度特性、バイアス特性に優れたタンタル固体電解コンデンサが必要な回路では、用途やセットメーカーの安全設計の意向によっては安全機構を持つタンタル固体電解コンデンサの使用が義務付けられるケースがある。従来の安全機構付き品は単位体積当たりの収納容量効率が低く、必要な耐圧と容量を確保するためには大サイズ品を使用せざるを得ず、結果として回路基板サイズの増大を招いてしまうため、回路設計者からは安全機構付きの小形大容量パッケージが望まれている。

 一般的な安全機構付きタンタル固体電解コンデンサは、コンデンサ内部素子と外部電極となるリードフレームとの間にヒューズ機能を持たせた部材を挿入する構造をとっている(図2-1参照)。模式図からも明らかなように、ヒューズ部材を内蔵することで同一パッケージ内に収納できるコンデンサ素子のサイズは大幅に小さくなり、タンタル固体電解コンデンサの長所である小形/薄形/大容量特性が損なわれていた。

 今回当社は、上記課題を解決するための新構造を採用し「安全機構付きタンタル固体電解コンデンサ」を開発した。新構造は、当社のフレームレス樹脂モールド下面電極品F98シリーズを基本構造としてヒューズ機能を持たせた超小形部材を電極基板に内蔵することで、従来品(F98シリーズ)から収納容量効率を下げることなく、小形/大容量と安全性を両立したものである(図2-2参照)。すなわち、ヒューズを内蔵しながら、従来のF98シリーズと同等の製品ラインナップを実現しており、製品寸法1608サイズ(L1.6×W0.85×H0.8mm)で10〜25V、1〜33uF、2012サイズ(L2.0×W125×H0.8mm)で10〜35V、1〜47uFの収納を実現した。例えば、従来の他社品が10V-22uFを収納するのに3216サイズが必要であるのに対し、当社開発品では同定格を2サイズ小形の1608サイズに収納することが可能となった。

 また、当社開発品の特長として、良好な溶断特性が挙げられる(図2-3参照)。他社品と比較し、低い電流値でも短時間で溶断する優れたヒューズ特性を備えており、回路電流が比較的小さいスマートフォンや通信モジュールにおいても、安定した溶断特性を発揮できる。さらに、当社開発品は内蔵するヒューズ部材の材質/形状/内蔵方法等を最適化したことで、良好な周波数特性も兼ね備えている(図2-4参照)。従来の他社ヒューズ品と比較し、大幅に低いESR/インピーダンス特性を実現しており、当社従来品(F98シリーズ ヒューズ無し品)とも遜色ないレベルである。総括すると、当社が開発した新構造安全機構付きタンタル固体電解コンデンサは、業界最高水準の収納容量を持つF98シリーズの長所に加え、課題であった安全性能をも向上した理想的なタンタル固体電解コンデンサといえる。

 これまで述べてきたとおり、当社が開発した安全機構付きタンタル固体電解コンデンサは、タンタル固体電解コンデンサの固定概念を払拭し、新たな市場拡大に一石を投じるものとえる。スマートフォンをはじめとするデジタルモバイル機器の小形/薄形/高機能化に貢献する注目の部品として、既に多くの引き合いがあり、今後も要求に応じた定格拡大を中心に商品開発を進めていく計画である。

【図2-1.安全機構付き樹脂モールド品の構造(一般品)】
図2-1
【図2-2.安全機構付き樹脂モールド品の構造(当社品)】
図2-2
【図2-3.ヒューズ溶断特性】
図2-3
【図2-4.周波数特性】
図2-4
ニチコンタンタル株式会社
2012年1月26日付 電波新聞掲載
技術情報ライブラリーのトップへ戻る ページの先頭に戻る