オーディオ用タンタル固体電解コンデンサ

【写真】  タンタル固体電解コンデンサ“MUSE F95”

 携帯型オーディオは、大容量のフラッシュメモリを用いたシリコンオーディオや、小形ハードディスク(以降HDD)を用いたHDDオーディオといった大量の音楽データを保存できるタイプの登場で爆発的に市場を拡大してきた。 手のひらサイズの携帯機器に手持ちの音楽CDが全て入ってしまうような利便性から、携帯型オーディオは加速的に普及した。
 携帯型オーディオの普及によりセット機器メーカーは小形・薄形デザインの競争や、高機能化、高音質化でも他社との差別化を進めている。
 また、携帯電話においても小形・薄形化への進展だけでなく、カメラ付き携帯が一般的となり、更なる付加価値として音楽再生機能付きが普及するにつれ、他社とのデザイン性による差別化だけにとどまらず“音質”が注目されている。
 この様に携帯型オーディオや携帯電話では、年々、小形・薄形・高性能化が進展しており、搭載される電子部品も小形・薄形・高性能化が強く求められている。
 コンデンサは、あらゆる電子・電気回路に欠かすことのできない部品であり、前述のような音響機器にも多く採用されている。その中でもアンプ出力のカップリングコンデンサは、音質に最も影響を与える重要な部品と言える。
 アンプ出力は、直流成分に音声信号がのった波形で、図1のようにアンプとスピーカー/ヘッドホン(図1では抵抗Rで示す)の間にコンデンサを挿入して直流をカットし交流成分のみをスピーカー/ヘッドホンに出力する。このコンデンサをカップリングコンデンサ(交流結合コンデンサ)と呼んでいる。図2に示すように入力電圧と出力電圧をそれぞれ V1, V2 とすると、それらの関係は図3のようになりカップリングコンデンサの静電容量が小さいと低音域が弱い音となってしまう。イコライザでの音質調整は“音”にひずみが生じ、原音を忠実に再現するためには低音域を減衰させない大容量のコンデンサが求められる。
 また、携帯機器のデザインを損なわないためにも小形・薄形である必要がある。同時に室内から屋外と環境変化が大きい場所での使用に対し、温度特性に優れた電子部品が求められる。
【図1】カップリング回路 【図2】入力・出力回路
【図1】 カップリング回路     
【図2】 入力・出力回路

【図3】  タンタル固体電解コンデンサとセラミックコンデンサの減衰特性比較

 一般的な携帯機器回路のコンデンサとしては、アルミ電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、積層セラミックコンデンサ等が使用されるが、中でもタンタル電解コンデンサは、単位体積当たりの静電容量が他のコンデンサよりも大きいことが特長で、携帯機器のデザインを損なわずに設計できるというメリットがある。また、タンタル電解コンデンサのもう一つの大きな特長として、周囲温度や印加電圧の変動に対して静電容量値が非常に安定していることから、環境変化への対応が必要な携帯機器に広く採用されている。当社では、単位体積あたりに収納できる静電容量が大きい特長を更に活かすべく収納容量の拡大を積極的に進めている。
 タンタル電解コンデンサの最小サイズは、2012サイズから1608サイズ、1005サイズへと小形化が進み、超小形・大容量品を実現している。
 従来タンタル電解コンデンサの大容量化は、タンタル粉末の微粉化技術の進展により高CVタンタルパウダーを活用することで対応してきた。1990年代前半では、タンタルパウダーの主流は30kCV程度であったが、高CVパウダーの開発が進められ、21世紀に入り100〜150kCVの高CVタンタルパウダーが実用化されている。
 パッケージに収納される素子体積は、リードフレームを用いた標準樹脂モールド品(図4)では、ほぼ限界まで拡大し、高CVタンタルパウダーの使用でコンデンサの収納容量拡大を進めてきた。一方、更なる収納容量拡大を目指し、近年リードフレームを使用しない構造のコンデンサに注目が集まっている。リードフレームがパッケージ内に存在しないため、コンデンサ素子の大形化が可能となり、製品の小形、薄形、大容量化が可能となる。また、コンデンサ素子から直接電極を引き出す構造により、ESR/ESL特性面でも優れた周波数特性を有している。当社は、リードフレームを使用しないタンタル電解コンデンサ「フレームレスTM」シリーズを量産している。

【図4】 樹脂外装(フレームレスTM)形と樹脂モールド形の構造図

 樹脂外装形「F95シリーズ」はリードフレームを使用せず、文字通り樹脂外装(樹脂モールドではない)を施した独自の構造(図4)で、その歴史の中で順次進化を遂げ携帯電話やデジタルカメラなどの携帯機器に広く使用されてきた。
アナログ系の回路で広く採用され、特にオーディオ回路で使用される場合は、リードフレームを使用しない構造により他のチップ形コンデンサでは得られない高音質が得られるとの高い評価を得ている。

 年々、小形・薄形・高機能化する携帯型オーディオに求められる小形・薄形・低ESR/ESLといった要求には、高体積効率パッケージの「フレームレスTM」シリーズで応えてきたが、年々セット機器メーカーから強まる“音質”の追及のため、当社では“音”をより意識したオーディオ用「MUSE F95シリーズ」を商品化した。
 ここで樹脂外装形「F95シリーズ」の構造を説明するとコンデンサ素子に薄くエポキシ樹脂を被い素子の上部/底部にそれぞれ陽極/陰極をつけたシンプルな構造である。
 このシンプルな構造はコンデンサ特性を劣化させることなく電極引き出しを可能とし、低ESR/ESL、低損失特性をもつことも高音質に貢献している。
 また、「F95シリーズ」は、標準樹脂モールド品で使用されるリードフレームを使用せず、内部素子と電極を直接接続させる構造により耐振動性に非常に優れるため、固有振動が発生せず、また内部素子がパッケージに占める割合が大きい優れたパッケージを実現させている。その上、電極材料は鉛フリーはんだの中から銅を含有する材料を用いることで音質向上につながっている。
 更に、アルミ電解コンデンサ「MUSEシリーズ」で培ったノウハウを活かし、各構成材料を耐振動設計として最適品を選定。素子設計及び各工程の製造条件をより低ESRとなる条件に最適化、陰極引き出し層では、固体電解質がより高密度に形成される条件を開発したことにより、電気特性のバラツキが少なく、低周波から高周波までフラットな特性が得られ、また音質の感応評価では「F95シリーズ」標準品と比較して、どの周波数域でもより透明感のある音質が得られるようになった。このように「F95シリーズ」をオーディオ用に刷新し「MUSE F95シリーズ」を誕生させた。
 3216サイズでは「高さ1.2mm Max」のSケースと「高さ1.6mm Max」のAケースをラインアップ、3528サイズでは「高さ1.2mm Max」のTケースと「高さ2.0mm Max」のBケースをラインアップ。計4ケースをラインアップしセット機器メーカーの要求に対応している。(図5)
「MUSE F95シリーズ」では、3216サイズ「高さ1.2mm Max」のSケースで220F/4V、3528サイズ「高さ1.2mm Max」のTケースで330F/4Vをラインアップした。リードフレームを使用した標準樹脂モールド品では、1ランクサイズを大きくしないと実現できない容量を、高体積効率構造と超高CVタンタルパウダーを使いこなすことにより実現している。今後セット機器メーカーの要求により、2012サイズ品にも「MUSE」設計を導入し、定格電圧4Vで100F以上の大容量品をターゲットに商品化する。
以上のように「MUSE F95シリーズ」はサイズバリエーションが豊富であり、セット機器メーカーの用途により最適品の選定が容易で音質を損なうことなく回路設計/セット機器のデザインの自由度を広げることが可能である。

【図5】 タンタル固体電解コンデンサ“MUSE”シリーズのラインアップ 

 携帯型オーディオメーカーでは、独自性を出すために今後も小形・薄形・音質の改善が図られるものと考える。その要求に応えるためにタンタル電解コンデンサに求められるのは更なる小形・薄形化と大容量化である。
タンタル粉末の微粉化技術の開発が更に進み、200kCVを超す超高CVタンタルパウダーをパウダーメーカーと共同開発し、その超高CVタンタルパウダーを如何に使いこなすかが今後の課題である。
 セット機器メーカーが今後必要とする次世代品の小形・高容量品を提供し、且つ音質を向上させるために、超高CVのタンタルパウダーにマッチした高音質の設計・製造条件の確立と各構成材料の最適化をセット機器メーカーと共同で進め、より高音質化への開発に取り組んでいる。


ニチコンタンタル株式会社 技術部 技術課 井川祐一

2006年1月26日付 電波新聞掲載
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