導電性高分子固体電解コンデンサ(アルミ・タンタル)の最新技術動向

開発の背景

デジタル家電の本格的な普及に伴ってコンデンサ市場が活性化してきている。特に携帯電話、ノートパソコン、PDA等のIT関連機器、液晶・PDPテレビ、DVDプレーヤ/レコーダ、デジタルカメラ等のデジタル家電機器、カーナビゲーションシステム等のカーエレクトロニクス機器の普及が目覚しく、コンデンサ市場拡大の主因となっている。
  これらの電子機器の進歩は、留まることなく小形・薄形・高性能・多機能化が進められており、必然的に搭載される電子部品に対しても小形・薄形・高性能化の要求が高まっている。コンデンサは用途・回路に応じてアルミ電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、積層セラミックコンデンサ、フィルムコンデンサ等が使い分けられており、市場要求に対応すべく各コンデンサとも高付加価値商品の開発にしのぎをけずっている。
  こうした状況において、導電性高分子を陰極材料に使用した導電性高分子固体電解コンデンサ(アルミ、タンタル)は、高周波特性に優れ低ESR/ESLといった特長を持ち、電子機器の高性能化に伴う動作周波数アップという市場要求に合致して近年大幅に市場が拡大している。 
  以下、当社が生産する導電性高分子アルミ・タンタル固体電解コンデンサの製品・技術動向について述べる。

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの特長
『導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ』
「CJシリーズ」

パソコンやゲーム機などの高性能化に拍車がかかる中、CPU(中央処理装置)周辺回路には従来と異なる特性が求められている。
CPUの高速化・高機能化により、頻繁に電力消費量が変動するため、電源からの電圧供給を補完して動作の安定化を図ることが重要になっている。そのためCPU近傍の回路に使用されるコンデンサには、より素早い応答性が求められ、高周波特性に優れ、小形で大容量、かつ低ESRである特性が必要となっている。しかし、電解液を使用しているアルミ電解コンデンサでは年々対応が難しくなってきており、それに応えるべく開発されたのが、電解液の替わりに導電性高分子を使用した導電性高分子アルミ固体電解コンデンサである。
アルミ電解コンデンサに使用される陰極材料を表−1に示す。一般のアルミ電解コンデンサは電解液と呼ばれる液体を製品内部に含み、イオン伝導で電子が移動する。低ESR化は主として電解液とセパレータの低抵抗化によって進められているが、イオン伝導のために低抵抗化(低ESR化)に限界がある。一方で固体電解質は電子伝導であり、電導度の高さを生かしたコンデンサの低抵抗化の開発が進められ、中でも近年開発された導電性高分子は、その電導度の高さから、固体電解コンデンサ用の材料に選定されている。

電解質の電導度(S/p) 陰極材料名 伝導機構 耐熱性
0.01
0.1
1
10
100
電解液 イオン伝導
二酸化マンガン 電子伝導 α相転移温度:500℃
TCNQ錯体 電子伝導 熱分解温度:200〜240℃
PPy 電子伝導 熱分解温度:300℃
PEDOT 電子伝導 熱分解温度:350℃
表-1 『陰極材料の種類と電導度』

 加えて、熱分解温度の比較においても表−1に示す差が見られる。近年の鉛フリーはんだ導入により、電子部品がはんだ付け工程で受ける温度は高温化しており、電子部品自体の高温度対応が求められている。中でも、PPy(ポリピロール)やPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)のように、熱安定性の高い導電性高分子が主に採用されている。
  導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの製造ラインを考えると、PPyはその重合反応の速さから、アルミニウム箔表面のピット(細孔)の隅々まで行き渡りにくく、深部のピットに導電性高分子が入り込まないために、満足する特性を得ることが難しい。一方、PEDOTは重合反応のコントロールが容易で、ピットの隅々まで入り込んでから重合を進行させることが可能である。また、PEDOTは電導度、熱分解温度ともにPPyより高く、製造面並びに特性面から、当社はPEDOTを固体電解質に採用している。
  図−1に、導電性高分子を陰極材料に使用した巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「CJ」シリーズ(面実装品)の内部構造図を示す。基本構造は電解液を使用した一般アルミ電解コンデンサと同じく、巻き取った素子をアルミケースと封口ゴムで封入している。異なるのは、素子に含浸させているのが電解液か、固体の導電性高分子かという点である。
  既に当社では巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「CF」シリーズを商品化しているが、より低ESRの製品を、という市場要求に応えるべく、素子設計の見直しと導電性高分子生成工程の最適化によって、更なる低ESR化に成功した。特に導電性高分子を生成する重合工程においては、材料の配合比率および工程の温度・湿度など、さまざまな試験結果より最適条件を導き出している。

図-1 『CJシリーズの内部構造』

 具体的な例を示す。CFシリーズ4V330μF(φ8×7oL)の100kHzにおけるESR値は21mΩであるが、同一定格のCJシリーズはサイズφ6.3×6oLと、製品体積比で約半分にもかかわらず、ESR値は15mΩと約30%の低減を実現した。更に同サイズで比較すると、CJシリーズの容量は560μFになり、約1.7倍の容量を収容している。
CJシリーズの適用は、基板占有面積を拡大せずに現状よりも大きいリプル電流を許容出来ることから、回路基板の小型化に貢献する。しかし、更なる低ESR化への市場要求は強く、新たな製品を市場投入すべく開発を行なっている。
  巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは、単位基板専有面積当たりの容量が、他のコンデンサに比べて大きいという特長がある。機器のデジタル化により、回路基板の多層化・高集積化が進んでいる中で、基板上における電子部品の集積度は逆に下がっている。高さ方向のスペースを有効活用し、少ない搭載数で済む巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは、タンタル電解コンデンサや積層セラミックコンデンサと比較して、単位面積当たりの静電容量集積率が高く、セットの小型化と低コスト化を目指したセットメーカーの開発方向にマッチした製品と言える。
導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは、既に薄型テレビなどのデジタル家電やコンピュータのマザーボードなど、広範囲に使用が拡大している。また、演算処理の高速化を実現したマルチコアシステムや、ブルーレイディスクやHD−DVDなど、最新機器から要求される特性に適した点が非常に多く考えられ、将来に向けて期待の大きい電子部品と言える。

導電性高分子タンタル固体電解コンデンサの特長
『高周波デカップリングデバイス』
「F11シリーズ(高速CPU用)」
「F31シリーズ(汎用)」(写真手前)

一方、陽極材料にタンタルを使用した導電性高分子タンタル固体電解コンデンサは、単位体積当たりの容量が大きいこと、周囲温度やバイアス電圧に対する安定性に優れていることから、各種電子機器に広く採用され需要が急激に拡大している。
現在の導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ市場の拡大は、優れた周波数特性以外にも、その安全性が市場の要求に合致することも一因と考えられる。一般にタンタル固体電解コンデンサは積層セラミックコンデンサなどの他部品と同様、大電流が流れる回路でショートすると発煙・赤熱する場合があるが、陰極材料に導電性高分子を使用したタンタル固体電解コンデンサは材料の特性上、その程度が大幅に軽減されている。電子機器の高機能化要求と同時に、安全性がクローズアップされる昨今、優れた特性と高い安全性を両立する導電性高分子タンタル固体電解コンデンサの需要が高まる現状は自然な市場動向とも言える。
2005年の統計によると、タンタル固体電解コンデンサ全体の年間マーケット数量(金額)は約240億個(約23億ドル)であるが、そのうち導電性高分子タイプは約29億個(約4億ドル)であり、数量ベースで約12%、金額ベースで約18%を占める状況である。更に同市場は今後も大きく成長し、年間約15%の増加率で2010年には約586億個との予想値も示唆されている。(Paumanok market research study 2006より)また、製品サイズに関しては前述したとおり、小形・薄形化が技術トレンドの大きな流れのひとつであり開発競争が激しくなっている。また更なる低ESR/ESL化技術についても、構成材料の見直しや構造/端子形状の改良が進められている。

前述のような市場/技術動向の中、当社は先般、平滑コンデンサ用、高速CPUデカップリング用として2種類の導電性高分子固体電解コンデンサを商品化した。
モバイルゲーム機等、高機能モバイル電子機器向けに小形/薄形/低ESRを特長とする導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ「F31シリーズ」がそのひとつである。コンデンサ素子には単位体積あたりの容量が大きいタンタルの焼結体、固体電解質には高導電性の導電性高分子を使用することで、優れた高周波特性を実現しており、デカップリング用途の他、スイッチング電源の平滑化用途、ノイズ吸収に効果を発揮する。(製品サイズ「Bサイズ:3.5×2.8×1.1mm」、定格「4〜10V、22〜68μF」) 更に、当社独自の「フレームレス™」構造と融合することで、より小形/薄形/低ESRかつ大容量/低ESLを実現するタイプの開発も進めており、順次シリーズを拡充する予定である。
また、もうひとつの商品として、高性能PCや次世代ゲーム機に使用される高周波CPU用途に、幅広い周波数帯域で超低ESR/ESL特性を有する「F11シリーズ」をリリースした。(製品サイズ「Fサイズ:16.7×12.1×2.5mm、Dサイズ:8.5×5.3×2.0mm」、定格「2.5〜6.3V、47〜1200μF」)高周波領域でのインダクタンスを抑制するために、内部素子に高導電率の導電性高分子を固体電解質としたアルミ電解コンデンサを用い、独自の3端子構造を採用している。さらにコンデンサ素子から直接電極を引き出す構造とすることで、超低ESL特性を実現し、幅広い周波数帯域で優れたインピーダンス特性を得ることができる。大容量で超低ESR/ESLであるため、従来の高周波デカップリング用途の数十個のコンデンサを、同製品数個で代替が可能である。

導電性高分子固体電解コンデンサは、今後各社の主力商品になると考えられ、当社においても独自技術の適用によるアドバンテージを前面に打ち出し、市場要求にマッチした高付加価値商品の開発を展開していく計画である。


※語句説明
   ESR (Equivalent Series Resistance):等価直列抵抗
   ESL (Equivalent Series Inductance):等価直列インダクタンス 

ニチコン福井株式会社 技術課 森石 亮治
ニチコンタンタル株式会社 技術部 技術課 青木 清文
2007年1月9日付 電波新聞掲載
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