カーエレ用アルミ電解コンデンサの最新技術動向

カーエレクトロニクスを支えるアルミ電解コンデンサ

<はじめに>
急速にエレクトロニクス化が進む自動車。その各電装機器を支えるアルミ電解コンデンサに対する要求性能は、用途の拡大とともに年々高度な内容になってきている。ここでは、当社が取り組みを進めるカーエレクトロニクス分野向けアルミ電解コンデンサの中でも、ハイブリッドカーに向けたパワー系の用途と、制御系の高温度環境用途について、最新技術動向の一端を紹介する。

●アルミ電解コンデンサ

◆特長◆

 アルミ電解コンデンサを他のコンデンサと比較すると、電圧と静電容量の対応範囲が広い特長がある(図1)。
 コンデンサの静電容量は、電極間距離、すなわち誘電体の厚みに反比例するので、様々な誘電体材料の中でもっとも薄い誘電体を採用するアルミ電解コンデンサは、もっとも大きな静電容量を得ることが出来る。エッチング処理による電極箔表面積拡大によって、160V以上の中・高圧用で30~40倍、100V以下の低圧用で80~100倍程度となる。アルミを電極材料として使用するもう一つの理由は、金属材料の中では比較的安価で、なおかつ巻回構造を採用できることから、製造方法も大量生産に向いていることにある。形成可能な酸化皮膜は、製品として4V~550Vと広範である。



◆カーエレ用途◆
 広い電圧範囲に大容量で対応可能な上、構造上も低コストで大量生産できるリード線形アルミ電解コンデンサ及びチップ形アルミ電解コンデンサは、従来からエンジン制御、AT制御等の各種マネージメントシステム、エアバッグ、カーオーディオ用途等で多く使用されてきている。今後、使用量の拡大が見込まれる用途として、ディスチャージヘッドランプ、電動パワーステアリング、カーナビゲーション等がある。またITS関連やその具現化の一つであるETCの本格的普及が見込まれる各種情報機器は、カーエレクトロニクスの中でも、とりわけ成長性の高い市場と期待されている。

●ハイブリッドカー用途

 上記の小形アルミ電解コンデンサの用途以外に、大形アルミ電解コンデンサを使用する用途としてハイブリッドカー用途がある。以下にこの用途における要求性能と、対応技術を記す。

◆ハイブリッドカーの種類◆

 ハイブリッドカーのモーター制御システムは図2の様な構成であり、主電源であるバッテリーを補う形で平滑用アルミ電解コンデンサが搭載されている。
 大電流対応が要求されることから、ネジ端子形アルミ電解コンデンサが使用されているが、今後ハイブリッドカーを普及させるため、システムの低コスト化・小形化が不可欠とされている中、平滑用コンデンサも、小形大容量化、高リプル対応化といった性能改善が要求されている。
 なお、ハイブリッドカーの種類には、本格型と簡易型の2つのシステムがあるが、いずれにしても現時点でモーター制御用インバータに平滑用コンデンサは不可欠とされている。



◆高電圧インバータ用途◆
 既に国内で販売されているハイブリッドカーは144V~300Vと高電圧で高性能なバッテリーを搭載した本格型で、高電圧インバータを採用する。電源電圧から平滑用コンデンサの定格電圧も350~450Vといった高圧品が使用されている。
 高圧用アルミ電解コンデンサは、耐圧との兼ね合いでESR(等価直列抵抗)を小さく設計することが難しい。  よってESRとの損失電力で起こる発熱を低減し、長寿命に対応する設計が必要となる。つまり、平滑用コンデンサの寿命、サイズ、コストを追求する上で鍵を握るのは耐リプル性能といえる。
 静電容量については-40oCの極低温域においても数百~数千μFが必要とされており、低温特性を苦手とする高圧用アルミ電解コンデンサでは注意が必要となる。

◆低電圧インバータ用途◆
 主電源に36V鉛バッテリーを搭載した簡易型システム、いわゆるISG(Integrated Starter Generator)は、アイドリングストップと制動エネルギーの回生を可能にし、さらに周辺の補機類も電動化することで燃費を改善する。
 ISGシステムでは電源電圧が36Vと低い低電圧インバータであるため、平滑用コンデンサは定格電圧100V以下の低圧用が使用される。
 低圧用は高圧用に比較してESRを小さく設計することは可能であるが、本格型ハイブリッドカー以上のリプル電流耐量が要求されており、高リプル性能に優れている商品が望まれることに変わりない。

◆要求性能と実現技術◆
【高リプル化要求】
 前段にて、ハイブリッドカー用途においては小形で高リプル電流に対応した製品が求められていることを示した。その改善切り口は(1)ESR低減(2)耐熱性改善(3)放熱性改善の3つがある。以下に個別技術について説明する。

(1)ESR低減
 アルミ電解コンデンサは陽極箔と陰極箔を対向させながらも、エッチングを施した凹凸部分を完全に対向させることが出来ないため、導電性を有する電解液を介在させることで対向電極の役割を果たしている。電荷の授受はイオン伝導で行われるので、電荷の移動を早くする、すなわち電解液の電導度を改善(低比抵抗化)することがESR低減には有効となる。当社が高圧パワーエレクトロニクス用として使用する電解液は、10年前のレベルと比較しても約50%、2~3年前のレベルと比較しても20%の低比抵抗化を実現している。
 電解液と同様にセパレータである電解紙の抵抗分を小さく選定することも、ESR改善面で有効である。しかし、耐圧とのトレードオフ関係があるので、そのバランスをとることが重要である。
 さらに、ハイブリッドカーでの使用を前提とした手法ではあるが、通常の1/4程度の低倍率エッチングを薄手のアルミ箔にすることで、収容電極箔面積を拡大することが可能になる。収容静電容量は犠牲になるが、対向電極面積を拡大することが可能で、高周波ESR特性を改善する効果がある。

(2)耐熱性改善
 アルミ電解コンデンサの重要特性の一つに漏れ電流がある。漏れ電流は誘電体皮膜の欠陥修復電流を表している。  
 通常の誘電体皮膜は結晶性の誘電体皮膜であり、使用中の熱や電圧変動の外部ストレスによって誘電体皮膜の部分結晶に伴う収縮作用で欠陥部が露呈し、漏れ電流が増加する。漏れ電流が増加すると、電解液の誘電体皮膜の修復作用によって皮膜欠陥部は修復されるが、電解液の消費とともに水素ガスが発生して内部圧力が上昇する。高温中ほど漏れ電流は増加するので、耐熱性を重視する場合には漏れ電流の小さい製品が望まれる。
 当社が圧倒的なシェアを有するインバータエアコン向けアルミ電解コンデンサに使用する電極箔は、緻密かつ均一な非結晶型酸化皮膜(アモルファス皮膜)を用いているため、漏れ電流を一般的な電極箔に比べて1桁小さいレベルに抑えている。図3に一般的な結晶型酸化皮膜を形成した電極箔と、非結晶型酸化皮膜を形成した電極箔をそれぞれ採用したネジ端子形アルミ電解コンデンサの高温度雰囲気中での漏れ電流性能比較を示す。
 この非結晶型酸化皮膜は充放電電流に対し強固で、高温中での劣化度合いも極めて小さいという特長を持ち合わせるため、この誘電体皮膜を採用したネジ端子形アルミ電解コンデンサでは耐熱性能を20%改善している。



(3)放熱性改善技術
 熱を逃がす技術として、強制的に放熱することが出来るヒートパイプをアルミ電解コンデンサにはじめて採用し、「ラジキャップ」として商品化した。図4に示すようにヒートパイプを巻芯として素子を巻回したことで、もっとも発熱の大きな素子中心からヒートパイプを経由して外部に放熱する構造。すなわちヒートパイプに入った熱は瞬間的に放熱フィンに伝えられるので、中心部の温度を大幅に低減することが可能である。



【高電圧化要求】
 ネジ端子形アルミ電解コンデンサで標準的に生産対応可能な最大電圧は従来550V迄であった。しかし、ハイブリッドカー用途においては、 サージ電圧を考慮した設計仕様上、定格電圧として550V以上の電圧を求められる可能性も出てきている。当社では将来的なニーズ予測も考慮して、550V以上の定格電圧を実現するアルミ電解コンデンサを開発中である。

【安全化要求】
 車両用途、中でも大きなエネルギーで使用されるパワー系では安全化対策が求められる。当社では自己消化性の特長を有する電解液の採用や、耐熱・耐衝撃性に優れた樹脂を端子板に採用している。さらに保安装置機能を付加した商品も開発中である。

●高温度対応用途

 最近の技術動向として、自動車用各種電装装置のエレクトロニクス化とともに、特にエンジンルーム等高温度での使用可能な商品が求められている。使用環境が高温で、且つ長期に高信頼性が要求される用途に対応した高温度対応品シリーズをニチコンはラインアップしている。

【150oC対応品】

 超高温度アルミ電解コンデンサとして、150oC用BXシリーズを商品化した。BXシリーズは、(1)高温中で蒸発が少ない電解液(2)高温度対応化成皮膜(3)ゴムメーカーと共同開発をした耐熱性に優れた封口材、の3つの開発要素を有機的に組み合わせて採用している。これにより、高温度対応と高信頼性を同時に実現した。 保証性能は150oCで1000~2000時間。ケースサイズはφ10×12.5mm~φ18×40mmで、静電容量1~4700μF、定格電圧10~35Vの範囲をカバーしている。かつ環境に配慮した”Geo Cap”シリーズとして外装スリーブはPVCを廃し、ナイロンラミネートケースを採用している。

【125oCチップ形品】

 高信頼性のUBシリーズと大容量に対応したUHシリーズを揃えている。
 UBシリーズは、125oCで1000時間保証。ケースサイズはφ8×6.2mm~φ10×10mmで、静電容量10~330μF、定格電圧10~50Vの範囲をカバーしている。
 UHシリーズは、125oCで5000時間保証。ケースサイズはφ12.5×13.5mm~φ20×21.5mmで、静電容量100~3300μF、定格電圧10~50Vの範囲をカバーしている。いずれの商品も、今後のカーエレクトロニクス用途において需要拡大を見込んでいる商品である。

<おわりに>
 アルミ電解コンデンサを電圧、静電容量を個々に上回るコンデンサは既に存在している。しかし、この2つを掛け合わせた広い範囲を網羅し、しかも圧倒的に小形、低コストで対応可能な点は、アルミ電解コンデンサの持つ最大のメリットである。
 今回述べた内容は他のコンデンサが有する優れた点をアルミ電解コンデンサとして解決して行く切り口であるが、本来有しているコストとサイズ面での優位性を失わず、バランスのとれた商品を開発することがポイントになると考える。

2001年7月2日  電波新聞掲載

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