クリーンエネルギー分散電源

1. まえがき
地球温暖化が人類の大きな壁として立ちはだかるようになり、環境問題への関心が世界的に高まる今日、低炭素社会実現に向けた取り組みが世界各国で積極的に進められようとしている。日本は、エネルギー効率では、世界トップの実績を誇っているが、クリーンエネルギーの導入では、残念ながらヨーロッパや、アメリカにリードされている。その理由として太陽光の日照時間が必ずしも高くないこと、安定した風が吹く地域が限られること、変動の激しいクリーンエネルギーを大量に電力系統に接続することで電力系統の安定を損なうことなどが挙げられる。
自然現象そのものを変えることは困難であるが、クリーンエネルギーの変動を緩和して電力系統に大量に接続しても問題が発生しないようにすることは、技術的に解決可能である。ここでは技術革新の目覚しい蓄電技術とクリーンエネルギーを組み合わせてクリーンエネルギーの変動を平準化でき、負荷の状況に応じて出力を変化できるシステムを紹介する。

2. 蓄電機能付風力発電システム
風力発電は電力出力が風力の三乗に比例するため、その変動が極めて大きく、電力系統に大量に連系した場合、周波数維持だけでなく火力発電などの集中型電源の運用にも大きな支障が発生し、電力系統の運用が困難になることが予想される。
ここでは風力発電に蓄電部を付加して、出力の平滑化や夜間の軽負荷時に発電電力を蓄電する分散エネルギーシステムについて紹介する。

本システムはNEDOの次世代蓄電システム実用化戦略技術開発「系統連系円滑化蓄電システム技術開発」として当社が5カ年計画で実証実験を進めているものである。
本システムの蓄電部には「リチウムイオン二次電池」を採用しているが、リチウムイオン二次電池は電池セルの電圧が低いこともあり、電力系統と連系するには数百個の電池セルを直列、並列に接続しなければならない。さらに使用条件により、電池セルの寿命も大きく変化する。

本システムでは電池容量の抑制、電池能力の補完、電池性能の延命等に寄与する入出力変換機構の構成ならび制御方法を確立するために、電池セルはバッテリーマネジメントシステムを用いて監視・制御され、電圧バラツキの抑制および改善や電力変換器との連系制御を行っている。
電力変換部では、電力系統に瞬停が発生しても蓄電システムが運転継続するFRT機能や端子電圧の大きさに応じて系統に有効・無効電力を出力するDVS機能のほか、系統電圧安定化のための制御や蓄電への急激な充放電を抑制する機能などを実装している。

系統円滑化蓄電システム

系統円滑化蓄電システム

北陸電力志賀風力発電設備

北陸電力志賀風力発電設備



3. 蓄電機能付太陽光発電システム

太陽光発電でも、出力変動に左右されずに負荷に電力を供給できるシステムが求められており、当社が開発した蓄電機能付太陽光発電システムを紹介する。
当社は、電気二重層コンデンサ技術と系統連系パワーエレクトロニクス技術の融合を図り、電気二重層コンデンサを蓄電部とする太陽光発電システムを2004年に開発した。本システムは太陽光パネルの最大出力点(最大電力追尾制御)で運転しながら、電気二重層コンデンサに充電させ、そのエネルギーを系統連系させるシステムである。
本システムは、10kW太陽光パネルの最大電力追尾制御を行うDC/DCコンバータ部、そのエネルギーを蓄電する蓄電部、太陽光パネル、若しくは蓄電部に充電されたエネルギーを系統側に出力させるパワーコンディショナ部で構成される。
開発したシステムは、「新制御方式適用型(ピークカット)」としてNEDOより太陽光発電新技術等フィールドテスト事業の共同研究者として助成を受け、電力需要が大きいときのピークカットの指令によりシステムを制御する。ピークカット時以外のときは、太陽光パネルからの出力エネルギーをパワーコンディショナ部が系統側に出力し、ピークカット時のときは、太陽光パネルからの出力を蓄電部に充電しながら、パワーコンディショナ部が蓄電部を放電させ、系統側に定格電力を出力させる。

DC/DCコンバータ部は昇圧型チョッパ方式を採用しており、そのチョッパ制御により最大電力追尾制御を行い、太陽光パネルの出力電力を効率良く取り出すことが可能である。蓄電部は電気二重層コンデンサを用いた当時世界最大級の8MJ蓄電バンクで10kW、10分程度のエネルギーを連続供給できる。蓄電部である電気二重層コンデンサには過充電保護機能が備わっており、安全性の高いシステムとなっている。パワーコンディショナ部は、高周波絶縁方式を採用しており、システム全体の制御を行っている。
蓄電部に電気二重層コンデンサを使用することにより、高寿命、鉛レス化を図っており、そのエネルギーを電力需要が大きいときに活用するシステムである。開発したシステムはニチコン本社ビルの屋上に設置され、現在も稼動中である。今後は系統連系の安定性、エネルギーの利便性をさらに向上させ、スマートグリッドの一躍を担う分散電源の開発に活かしていく。

蓄電機能付太陽光発電システム

蓄電機能付太陽光発電システム



4. まとめ

国は2030年までに風力発電や太陽光発電のようなクリーンエネルギーを電力供給量の10%相当の導入を目指しているが、これらクリーンエネルギーは自然の影響を受けやすく出力が不安定な電源であり、電力系統に大量に連系した場合、支障が生じる。そうした問題を解決する分散電源として蓄電機能付クリーンエネルギーシステムを2種類紹介した。こうした取り組みが、日本の低炭素社会実現を加速する技術として活用されることを期待している。



ニチコン株式会社 古矢 勝彦
ニチコン草津株式会社
特機部 特機技術課 青木 孝典/技術部 技術課 原田 茂
2010年1月8日付 電波新聞掲載

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