スマートグリッドを支える技術

■まえがき

地球温暖化が人類の解決すべき大きなテーマとしてとり上げられるようになり、環境問題への関心が世界的に高まる今日、低炭素社会実現に向けた取り組みが世界各国で積極的に進められようとしている。しかしながら変動の激しいクリーンエネルギーを大量に電力系統に接続することで、電力系統の安定を損なうことが懸念されている。
自然現象そのものをコントロールすることは困難であるが、クリーンエネルギーの変動を緩和して、電力系統に大量に接続しても問題が発生しないようにすることや、クリーンエネルギーによって発電した電気を電気自動車に充電することで、完全なCO2ゼロの走行を可能にするなど、新しい試みの実証実験が始まっている。ここでは技術革新が進展する蓄電技術とクリーンエネルギーを組み合わせた、将来のスマートグリッドの実現を支える電力系統と親和性の高いシステムや、クリーンエネルギーを電気自動車に充電する設備とその技術を紹介する。


*スマートグリッド
太陽光や風力で得た電力を導入した次世代の送電網。自然エネルギーによる発電は天候に左右されやすく電力供給を適切に制御する通信技術や電力機器、蓄電池などが必要となる。


■蓄電蓄電機能付き風力発電システム

風力発電は電力出力が風力の三乗に比例するため、その変動が極めて大きく、電力系統に接続した場合、周波数変動の調整や、電力系統の運用に支障を来すことが予想される。
これらを解決する為、風力発電に蓄電ユニットを付加して、出力の平滑化など、電力系統が不安定にならないような分散エネルギーシステムを開発し実証を進めている。
本システムは、NEDOの次世代蓄電システム実用化戦略技術開発「系統連系円滑化蓄電システム技術開発」として、当社が5カ年計画で北陸電力などと実証実験を進めているものである。本システムの蓄電部には「リチウムイオン電池」を採用しているが、電池セルはバッテリーマネジメントシステムを用いて監視・制御され、電圧バラツキの抑制および電力変換器との連系制御を行っている。
電力変換部では、電力系統に瞬時電圧低下が発生した場合に、蓄電部に蓄えられた電力で継続運転する機能や、系統電圧を維持する機能など、将来のクリーンエネルギーの変換器が備えるべき機能を先取りして実現している。

系統円滑化蓄電システム

系統円滑化蓄電システム

北陸電力志賀風力発電設備

北陸電力志賀風力発電設備



■太陽光発電、蓄電池と充電設備の組み合わせ例

完全なCO2ゼロ走行を実現するクリーンエネルギーを用いた充電設備や、蓄電機能を付加して受電容量に制約があっても急速充電を可能とする電気自動車用充電システムを紹介する。
電気自動車は、走行中にCO2を発生しないクリーンな自動車であるが、電力会社が供給する電気は、火力発電の電気が多く含まれており、発電段階のCO2発生は避けられない。クリーンエネルギーである太陽光発電のエネルギーを電気自動車に充電すれば、発電から走行まで含めたCO2ゼロ走行が達成できる。しかしながら、太陽光発電は、天候の変化による変動や、夜間は発電できないなどその発電が安定していないため、太陽光発電だけで電気自動車に充電することは難しい。当社は、6年前から本社屋上に電気二重層コンデンサを蓄電部に用いた蓄電機能付太陽光発電システムを稼動しており、その技術を用いて太陽光発電と蓄電池を組み合わせ、太陽光で発電された電力を最大限電気自動車に充電するシステムを実用化した。京都府が府庁に設置した充電設備は、20kWの太陽光発電と10kWhの蓄電池とを組み合わせ、急速充電と倍速充電を可能としたシステムで、完全にクリーンな電気を電気自動車に供給している。また、急速充電設備は、必要となる電源容量が大きい為、場合によっては高圧受電が必要になるが、受電設備や配線工事の費用が大きな負担になる。当社のシステムでは蓄電池から急速充電することで、受電設備の増設なしで、大容量の急速充電を可能にした。今後、こうしたシステムを公共施設、高速道路のサービスエリア、ショッピングセンターやコンビニエンスストアの駐車場などに設置することで、クリーンエネルギーの利用促進とCO2ゼロ走行の電気自動車を増やして、低炭素社会実現に向け、はずみをつけることが出来ると期待している。

京都府庁システム

京都府庁システム

京都市西京極総合運動公園システム

京都市西京極総合運動公園システム



■まとめ

風力発電や太陽光発電のようなクリーンエネルギーの導入について、政府は2030年までに電力供給量の10%相当を目指しているが、これらクリーンエネルギーは自然の影響を受けやすく出力が不安定な電源であり、電力系統に大量に接続するには高度な制御技術で電力系統の安定性を保証しなければならない。そうした高度な制御を実現した分散電源として蓄電機能付クリーンエネルギーシステムの一例として、発電変動の平準化や高度な制御機能をもった風力発電変換器とCO2ゼロの充電の出来る電気自動車用充電設備を紹介した。当社の電気自動車用車載充電器を始め、紹介した充電インフラやクリーンエネルギー発電システムが、スマートグリッドを支える技術として活用され、低炭素社会実現を加速する一助となることを期待している。



ニチコン株式会社 NECSTプロジェクト 古矢 勝彦
2011年1月7日付 電波新聞掲載

一覧に戻る