チップ形アルミ電解コンデンサの最新技術動向

■はじめに

 デジタル関連機器やIT機器等の発展に伴い、近年電子機器の小形・軽量化への動きはめざましいものがある。これを実現可能とした背景には表面実装(SMT)をベースとした高密度実装技術が挙げられる。現在、表面実装化のニーズは一段と高まっており、アルミ電解コンデンサのチップ化に拍車をかけている。
 また、高密度実装技術の進展による小形・省スペース化対応に加えて、高温度リフロー及び高温雰囲気環境への対応、高機能化(低インピーダンス・長寿命化等)の要望も高まっている。さらに社会的問題である環境対策にも十分配慮していく必要がある。
 こうした状況下、アルミ電解コンデンサにおいて、前述のニーズに則した新製品や技術開発が急務となっている。ここでは当社の製品を例に、チップ形アルミ電解コンデンサの最新技術動向を述べる。

■チップ型アルミ電解コンデンサ

 アルミ電解コンデンサは、電極リード棒を加締めた陽極用高純度アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔とを電解紙(セパレータ)で介して巻取った素子に、電解液を含浸させた後、アルミケースに挿入し封口材で封止する構造になっている。
 チップ形アルミ電解コンデンサは、リフローによるはんだ付け対応の為、高耐熱の電解液と封口材を使用している。また基板実装時の安定性と耐熱性向上の理由から樹脂成形板(座板)が取り付けられている。この形状(JIS 32形)が、今日におけるチップ形アルミ電解コンデンサの主流構造となっている。
 市場の様々なニーズに応えるべく、当社が開発したチップ形アルミ電解コンデンサを以下に挙げる。

チップ形アルミ電解コンデンサ構造図



■高さ3.0mm超小型低背品「ZDシリーズ」

 チップ形アルミ電解コンデンサを開発した当初(1985年)は、製品高さが6mmであったが、その後低背化が進み、1999年には高さ3.95mmの「ZRシリーズ」を開発した。しかし高密度実装技術の進展により、電子部品に対して更なる小形・省スペース化対応のニーズが高まり、この要望に応えるため当社では業界最低背品となる高さ3.0mmの超小形「ZDシリーズ」を開発した。
 チップ形アルミ電解コンデンサの小形化を実現する為には、電極箔の細幅化、封口材の薄形・高耐熱化が不可欠である。「ZDシリーズ」は、低背品であるため電極箔幅と封口材の厚みの組み合わせが重要で、また開発品の実現は設備の高精度化技術の向上に依存するところが大きい。

(1)電極箔の細幅化
 製品高さを低くするために素子を薄形にすると、電極箔の幅を細くする必要があり、製品全体に占める電極箔の収容体積が小さくなるため、高い静電容量を得ることが難しくなる。従って、単位面積当たりの静電容量が大きい高容量電極箔が必要となる。
 この要求に対し、電極箔のエッチング、化成技術の改良により単位面積当たりの容量が大きい高容量電極箔の開発に成功し採用した。

(2)封口材の改善
 封口材には、硬度及び耐熱性を向上させた封口材を採用し、製品を低背化しても、従来品と同等の耐熱性が得られる設計とした。

(3)設備の高精度化技術の向上
 極細電極箔のスリット加工に始まり、素子巻取り、組み立て、加工に至る一連の工程において、高精度な専用設備とそれを維持する生産技術力によって、超小形低背品の製品化を実現した。

 チップ形アルミ電解コンデンサ「ZDシリーズ」の仕様について、以下に述べる。
 「ZDシリーズ」の製品径はφ4、φ5、φ6.3mmで構成されており、いずれも製品高さを3.0mmとしている。耐久性は85℃、1000時間、定格電圧範囲は4~25V、定格静電容量範囲は2.2~100μFまでをカバーする。
 鉛フリーはんだにも対応し、リフロー条件はピーク温度240℃、220℃を超える時間30秒、リフロー回数はφ4、φ5mmは2回、φ6.3mmは1回まで可能となっている。
 チップ形アルミ電解コンデンサの低背化の要望が特に高いノートパソコン等の情報通信機器、カーナビゲーション等の車載関連機器を中心とした市場に供給し、セットのダウンサイジングに貢献している。

チップ形アルミ電解コンデンサ ZDシリーズ



■低インピーダンス・長寿命チップ型アルミ電解コンデンサ「CWシリーズ」

 2001年の家電リサイクル法施行の影響から、薄形ディスプレイ等のデジタル家電や情報通信機器分野で、廃棄量の軽減や環境への配慮からコンデンサの長寿命化の要望が高まっている。また長寿命化に加えて機能面では低インピーダンス化が強く求められている。そこで当社では低インピーダンス・長寿命チップ形アルミ電解コンデンサ「CWシリーズ」を開発した。
 従来、当社の長寿命品は105℃・5000時間保証「ULシリーズ」であったが、「CWシリーズ」は105℃・7000時間保証に加え、インピーダンス値を1/2~1/3まで低くすることに成功した。
 同シリーズが実現できたのは長期安定性を持つ電解液、低透過性封口材の採用によるところが大きい。

(1)長期安定性を持つ電解液
 今般、新たに低蒸散性・低比抵抗の電解液を開発し採用することで、低インピーダンス化・長寿命化を可能にした。

(2)低透過性封口材
 コンデンサの電解液は、封口材を通して徐々に蒸散するため、従来の封口材ではさらなる長寿命化を図ることが難しい。この問題に対し、低透過性封口材を採用し、最適部材を組み合わせることで長寿命化の実現を可能にした。

 チップ形アルミ電解コンデンサ「CWシリーズ」の仕様について以下に述べる。
 「CWシリーズ」はφ5×7mmL、φ6.3×7mmL、φ6.3×8.7mmL、φ8×10mmL、φ10×10mmLの5サイズで構成している。耐久性は105℃、7000時間で定格電圧範囲は6.3~50V、定格静電容量範囲は10~470μFまでをカバーする。
 鉛フリーはんだに対応し、リフロー条件は、ピーク温度250℃ 5秒、230℃を超える時間30秒、リフロー回数2回まで可能である。
 電子部品の長寿命、高機能化が求められる薄形ディスプレイやIT機器などのデジタル家電機器分野のニーズに応えていく。

■高温度260℃リフロー対応チップ型アルミ電解コンデンサ「WJ・WS・WZ・WD・WHシリーズ」

 環境問題への対応で、実装基板に使用するはんだが、従来の鉛入りはんだよりも高融点の鉛フリーはんだに変わりつつあり、チップ形アルミ電解コンデンサに対しては高温度リフロー実装への対応要求がある。従来、当社が推奨してきた鉛フリーはんだのリフロー条件は最大250℃ピークであるが、さらに高温度となる260℃ピークのニーズがある。コンデンサの耐熱性を向上させるためにはアルミケース、封口材、電解液の耐熱性改善が重要である。そこで、当社がこれまでに培ってきた技術に加え、高硬度アルミケース、高硬度封口材、高沸点電解液を採用し、コンデンサの耐熱性を向上させることで、260℃ピークのリフロー条件に対応したチップ形アルミ電解コンデンサを開発した。市場の様々なニーズに対応するため85℃品「WJシリーズ」、85℃高CV品「WSシリーズ」、105℃品「WZシリーズ」、105℃低インピーダンス品「WDシリーズ」、125℃品「WHシリーズ」の5シリーズをラインアップしている。

 仕様について以下に述べる。



 260℃高温リフロー対応5シリーズのリフロー条件は、いずれもピーク温度260℃ 5秒、230℃を超える時間60秒、リフロー回数2回まで(φ8×6.2mmL、φ10×10mmLは1回まで)可能である。
 いずれのシリーズにおいてもエンボスキャリアテープを使用した従来と同様のテーピングによる自動装着が可能である。

260℃リフロー対応チップ形アルミ電解コンデンサ
260℃リフロー対応品 当社リフロー推奨条件



■地球環境問題

 地球環境問題が大きく取り上げられる現在、環境に対する取り組みは、既に社会的要求となっている。当社ではこれら環境問題の重要性を早くから認識し、開発段階から取り組んでいる。
 環境保全の取り組みの一環として、鉛の人体と環境への影響を考慮し2001年4月からリード電極に鉛フリーメッキ材の採用を開始している。また当社カタログでは2006年7月から施行される「RoHS指令(電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限)」で規制される6物質(鉛、六価クロム、水銀、カドミウム、PBB、PBDE)への対応を明記するなど環境に配慮した行動を推進している。

■今後の取り組み

 情報通信機器・ネットワーク関連市場は更に拡大することが予想され、より小形・軽量・高性能品が求められる。また電子機器の使用条件も更に過酷となり耐久性、耐熱性、環境性等の要求も高まってくることは間違いない。この情報化時代を勝ち抜くため、市場でのさまざまなニーズをいち早く敏感に察知することで要求に沿った商品開発をタイムリーに行い、ユーザーの期待に応えていく。

ニチコン岩手株式会社 技術部 技術課 木村 政也

2006年1月10日付 電波新聞掲載

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