低インピーダンスチップ形アルミ電解コンデンサの技術動向

■アルミ電解コンデンサの特徴

アルミ電解コンデンサは、体積当りの容量が他のコンデンサより大きく、また主材料となるアルミニウムが比較的安価であるため、大容量のコンデンサを低コストで製造できる利点がある。電子部品の大きな課題のひとつである小形化をはじめ、諸特性向上のため、当社では基本材料の開発を進め高性能アルミ電解コンデンサを市場に投入している。図.1にアルミ電解コンデンサの特徴を表した各種コンデンサとの電圧範囲と静電容量範囲の比較図を示す。

図1 「コンデンサ比較(電圧-静電容量)」

■構造

アルミ電解コンデンサは、高純度アルミニウム箔表面に誘電体となる酸化皮膜(酸化アルミ:Al2O3)を形成した陽極箔、陰極箔、電解液、電解紙から構成される。
基本材料のひとつである陽極箔は、高純度アルミニウム箔を粗面化(エッチング)し実効表面積を拡大する。陽極箔は、一般に低圧用で80~100倍、中高圧用で30~40倍に表面積を拡大した後、化成により酸化皮膜を形成する。酸化皮膜は、極めて薄いことから大きな静電容量を得ることができる。また、酸化皮膜の厚みは、製品の耐電圧を決定する要素となり、製品の特性に大きくかかわる。一般的にアルミ電解コンデンサは有極性であるが、これは酸化皮膜が整流性を持つためである。
陰極箔は、陽極箔と同様にアルミニウム箔を粗面化した後、安定化処理を行う。
電解液は電気伝導性を持ち、電解液により陽極箔表面と陰極箔表面が電気的につながり、陽極箔表面の酸化皮膜を誘電体とした大きな静電容量をもったコンデンサが得られる。また、電気的、物理的ストレスにより発生した酸化皮膜の欠陥部を電気化学反応によって修復する効果も持つ。
電解紙は、陽極箔と陰極箔とを隔離するとともに、電解液を保持する働きがある。

図.2に概略図を示す。アルミ電解コンデンサは、リード線を接続した陽極箔と陰極箔とを電解紙を介して巻き取った素子に電解液を含浸した後、アルミケースに挿入し、封口ゴムにて封止する構造である。
面実装化に対応したチップ品は図.3に示すように、リード線形アルミ電解コンデンサに樹脂板を取り付け、リード端子を折り曲げてコンデンサ本体と樹脂板を固定する構造が一般的である。φ10mmを超える大サイズ品ではリード端子を樹脂板に取り付けられた端子板に溶接して固定する構造もある。

図2 「アルミ電解コンデンサ概略図」
図3 「チップ形アルミ電解コンデンサ概略図」



■CDシリーズ

チップ品はリフローにて基板に実装されるが、アルミ電解コンデンサは内部に電解液を保持していることから、他の電子部品と比較して熱に弱い傾向があり、リフローによるダメージを受けやすい。そのためチップ形アルミ電解コンデンサは、構成材料を使用条件に合わせて厳選する必要がある。よって低インピーダンス化等の特性向上だけでなく、リフロー時の熱的負荷を考慮することが必要であり、リード線形の仕様をそのまま流用できないことが多い。
チップ形アルミ電解コンデンサの低インピーダンス品では「UDシリーズ」(φ10mm ×10mm:0.09Ω、at100kHz)が、長寿命の特性を併せ持つことからも非常に高い評価を受けている。
しかし、電子機器の高性能化が加速化する中、常に性能の向上が必要であり、今回、更なる低インピーダンス化を図るため、低比抵抗を実現した新電解液を開発するとともに、その他の基本材料の最適な組合せを検討した。

新電解液を用いた新シリーズ「CDシリーズ」(図.4)では、「UDシリーズ」の10~45%の低インピーダンス化に成功している。「CDシリーズ」について特長を以下に示す。

図5  CDシリーズ UDシリーズとの比較



「CDシリーズ」に採用した新電解液は、広温度範囲に対応し、従来の寿命特性を維持しながら、インピーダンスの低減を実現したものである。
また、陽極箔は高倍率箔を採用することで小形化を図り、電解紙は、密度、厚み等最適な組合せを検討し、耐ショート性を満足しながら、低インピーダンス化を図っている。「CDシリーズ」は、新電解液の特性が最大限発揮できるようにその他の基本材料の最適な組合せによって製品化したチップ形アルミ電解コンデンサである。

また、大形サイズでは、耐振動性、耐衝撃性を向上させた新構造の検討を進めている。低インピーダンス、大容量化を実現することで、回路設計の自由度がさらに高まるものと考える。

■環境対応

2006年7月よりRoHS指令が欧州にて施行されるため、鉛等の有害物質を含まない環境対応品への切り替えが加速している。一般に、チップ形アルミ電解コンデンサでは、リード端子のめっきに鉛が含有されており、これを鉛フリーリード端子へ切り替えることで環境対応を図っている。従来、鉛入りはんだによるリフローのピーク温度は235℃付近であったが、現在一般的な鉛フリーはんだでのリフロー対応にはさらに10~30℃程度のピーク温度の上昇が必要となっている。鉛フリーはんだの溶融温度が従来はんだに比べ高くなることが要因である。したがって環境対応による製品への熱的負荷は非常に大きくなる傾向がある。当社では環境対応を前提とし、リフローによる熱の影響を考慮した設計開発を進めており、「CDシリーズ」も耐熱性を高めた環境対応品となっている。

■チップ品の今後の展望

電子機器の小形化が進み、面実装化は必須となる。電子機器の技術革新はすさまじく、各社独自性をもった高性能、多機能製品の開発が進められている。面実装により高密度化が進められているが、機器の小形化や独自性を持つ特異なデザインの実現のため、さらに省スペース化が求められており、小形化への要求がより強まることは必至である。同時に、特性向上の要求も強く低インピーダンス化、長寿命化が特に重要視されている。今回紹介した「CDシリーズ」はこのような要求に対応するシリーズとして「低インピーダンス化」を主とし、「小形」、「長寿命」を併せ持つことをコンセプトとしている。
またカーエレクトロニクス分野は、「より快適な空間」、「操縦性」、そして「安全性」をキーワードに更なる発展が予想され、より多くの電子機器が搭載されるようになると考えられる。「安全性を考慮した自動操縦システム」、「危険防止システム」等や、環境に配慮した「燃費向上」、「排気ガスの抑制」、「静音性」がテーマとなり、そして電気自動車の開発もより進められるだろう。前述の電子機器と同様に面実装化への動きが強まり、高信頼性が重要視され、「長寿命」、「低インピーダンス」、そして「過酷な使用環境下の耐用性」の要求が強まるものと考える。このような自動車車載関連においても、「長寿命」と「低インピーダンス」の特性をもつ「CDシリーズ」は要求を満足できるシリーズであると考える。これらの要求は今後ますます強まることが予想され、さらなる特性向上を目指し取り組んでいる。また、過酷な使用環境下での耐用性、軽量化 等の特性向上も必要であり、これらに対してスピーディーに対応すべく日々の開発・研究を進めている。

ニチコン大野株式会社 技術部 技術課 黒木 康王

2005年6月2日付 電波新聞掲載

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