低インピーダンスチップ形アルミ電解コンデンサの最新技術動向

はじめに
自動車関連・デジタル機器の進展に伴い、搭載される部品は「小形」・「高密度実装による雰囲気温度の上昇への対応」・「低インピーダンス化」・「長寿命化」などが求められている。
昨今の経済状況は一時の杞憂であるとみるにはあまりに厳しい市場環境が続いているのは周知の通りである。環境への配慮も伴って「よりエコノミーに、よりエコロジーに」という謳い文句は、もはや電子機器産業市場における常識と言っても過言ではない。経済全体の改変が動き出している今日、市場で台頭する種々の製品も大きな転換時期を迎えている。それを支える電子部品への多様なニーズに対して、従来技術の踏襲に留まった部品だけではなく、技術革新により生み出された部品の提案時期として、今は絶好の機会であると当社は捉えている。
自動車関連ではエコカー減税が市場に大きなインパクトを与えており、ハイブリッド車を筆頭として環境負荷が小さく経済的なエコカーが市場の主役である。電気自動車やクリーンディーゼル車といった新しいカテゴリも市場投入が始まっている。豊かな自然環境を慈しむための努力と、快適な車内環境の創設のための工夫、その思想は同じである。根底は常に「無駄を省く」技術であり、省スペース化・省エネルギー化が進む車載機器全般に不可欠の技術となる。デジタル関連機器やIT機器等もこの例外ではない。多種多様な分野のエレクトロニクス化は、電子部品の小形化・高機能化・高効率化の上に成り立っている。前述の内容を背景に表面実装を基本とした高密度実装技術は省スペース化を牽引しており一段と注目を集めている。この分野では、アルミ電解コンデンサもまたリード線形から表面実装化への動きが顕著になっている。
ここでは当社製品を例に表面実装に適した低インピーダンスチップ形アルミ電解コンデンサの技術動向を述べる。

低インピーダンスチップ形アルミ電解コンデンサ
「CLシリーズ」



アルミ電解コンデンサについて
アルミ電解コンデンサは、あらゆる電子機器に搭載されるほど汎用的な電子部品の一つである。アルミ電解コンデンサは誘電体として高純度アルミ箔表面に形成されたアルミニウムの酸化皮膜を用いる。誘電体層となる酸化皮膜は、他の誘電体と比べて非常に薄く均一な層を形成することができ、かつ比誘電率が高いので大きな静電容量を得るのに有利である。また、アルミニウムは金属材料中でも比較的安価な材料であり、高静電容量のコンデンサを低コストで生産することが可能である。
アルミ電解コンデンサでは効率よく大きな静電容量を得るために、電極となるアルミ箔を化学的に粗面化(エッチング)することによって電極箔の実効表面積を拡大している。陽極と陰極の電極箔を対向させ、両極箔間に電解紙をはさみ込んで円筒状に巻き込んだものを素子と呼ぶ。(図1)電解紙は絶縁物であり、粗面化された陽極箔表面に生成させた酸化皮膜を誘電体としたコンデンサになっているが、この状態では静電容量はわずかである。この素子に電解液を含浸することによって電解紙が電解液を保持し、酸化皮膜が誘電体として有効に機能するようになる。すなわち、電解液は真の陰極の役目を果たしている。電解液の特性が、アルミ電解コンデンサの諸特性に大きくかかわるため、コンデンサの定格、温度範囲、用途に応じて適切なものを選択している。素子に電解液を含浸後、アルミケースに挿入し封口材で封止する構造となっているのが一般的なアルミ電解コンデンサである。  
チップ形アルミ電解コンデンサは、リフローによるはんだ付け対応のため、高耐熱の電解液と封口材を使用している。また基板実装時の安定性と耐熱性向上の理由から樹脂成形板(座板)が取り付けられている。この形状(JIS 32形)が、今日におけるチップ形アルミ電解コンデンサの主流となっている。 (図2)

〔図1 素子構造〕

〔図2 チップ形アルミ電解コンデンサ構造図〕

105℃低インピーダンス品「CLシリーズ」
本製品は、特に「低インピーダンス化」の市場ニーズに応えたものである。デジタル機器に最適な低インピーダンスチップ形アルミ電解コンデンサ「CLシリーズ」をラインアップすることにより、エレクトロニクス化が進む車載機器分野及び薄型ディスプレイなどのデジタル家電機器・情報通信機器分野の要求に応えている。 本製品は、当社がこれまで培ってきた技術をベースとして新規電解紙の採用により、現行の当社低インピーダンス品「CDシリーズ」より25%~50%の低インピーダンス化を実現している。

電解紙はこれまで実績のある素材の中から、特に低ESRかつ高密度で信頼性の高い素材を選択し、従来品に比べて薄手化した電解紙を採用した。(ESR:等価直列抵抗)
電解紙を薄手化することにより、両極箔間に電解紙をはさんで巻き込んだ構造を持つ円筒状素子の体積を縮小できる。換言すれば、同体積でより多くの電極箔を巻き込むことが出来るため、電極箔の対向面積を拡大することが可能となった。
電解紙自体の低ESR化と電極箔対向面積の拡大の結果として、従来品に比べ同サイズ製品で最大50%の低インピーダンス化を実現している。 (表1)(表2)
当社は環境負荷に配慮した商品開発を進めており、本製品もRoHS指令に対応済みである。

〔表1 「CDシリーズ」と「CLシリーズ」インピーダンス値比較例〕

〔表2 「CDシリーズ」と「CLシリーズ」のインピーダンス周波数特性比較例〕



製品仕様は以下の通り。



チップ形アルミ電解コンデンサの今後の展望
既述の如く、デジタル機器やIT機器の高性能化・小形化は日進月歩の技術躍進により進展している。同サイズの製品であればより高性能のものが、同性能の製品であればより小形のものが求められている。市場で注目される製品は高いデザイン性を持ち合わせており、デザインの自由度を損なわないためにも搭載部品の省スペース化は、面実装化による高密度実装の実現と共に今後も強まっていくのは明白である。同時に「低インピーダンス化」等の特性向上も求められており、今回紹介した「CLシリーズ」はこの様な市場要求を満足できる製品である。

車載関連分野ではエレクトロニクス化の進展に伴い、快適な車内空間を得るためにもECUをエンジンルームに集中させ、システムの簡略化や低コスト策を講じている。その一方で、危険防止システム等のドライブアシストの機能やナビゲーションシステムによる安全性・利便性の向上、高燃費化・排気ガスの有害物質量低減による環境配慮、快適な車内空間等、これまで以上に車に求められる要求は高度化・多様化している。そのため電子機器分野と同様に搭載部品には、省スペース化と共に高信頼性の要求が高まっている。「CLシリーズ」は従来品に比べ、大幅な「低インピーダンス化」を実現しており、これら機器の高性能化に貢献するものである。加えて、エンジンルーム内の様な過酷な高温環境へ対応しつつ寒冷地での使用にも適した製品として、広温度範囲で使用可能な製品の要求も高まっており、「CLシリーズ」で実現した様な大きな技術革新のブレイクスルーを他に展開していきたいと考えている。



ニチコン岩手株式会社 技術部 技術課 古川 剛史
2009年8月20日付 電波新聞掲載

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