導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの最新技術動向

PC、家庭用ゲーム機などデジタル機器の高性能化は著しく、一般家庭への普及が加速している。 昨今ではネットブックに代わってタブレットPCの売れ行きが好調で、一人で複数種の機器を持ち、使い分ける場合も出てきた。 予想を上回るスピードで、社会、暮らしが変化している中で、その原動力がコンピュータの高速化・高機能化であり、 そのキーになっているのが、CPU(中央演算処理装置)の進歩である。 CPUの高速化・高機能化に伴い、電源回路には従来と異なる特性が求められている。
CPUの高速化・高機能化により、動作周波数がいちだんと高周波化することで、 電源回路に使用されるコンデンサには、より速い応答性が求められ、高周波特性に優れ、 小形で低いESR(等価直列抵抗)であることに加え、CPUの近傍に搭載されることから、 高温環境下でより安定な特性が求められるようになった。これらの要求特性は、 電解液を使用したアルミ電解コンデンサのみでは対応が難しく、それに応えるべく開発されたのが、 電解液の替わりに導電性高分子を使用した導電性高分子アルミ固体電解コンデンサである。 現在は電源回路の平滑用途、電流ノイズ除去用途にコンピュータのみならず、 広くデジタル機器をはじめとする様々な回路へと用途が広がっている。

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ125℃保証品 チップ形「CXシリーズ」(写真下)、リード線形「LXシリーズ」

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ125℃保証品
チップ形「CXシリーズ」(写真下)、リード線形「LXシリーズ」

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ100V品 チップ形「CVシリーズ」(写真下)、リード線形「LVシリーズ」

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ100V品
チップ形「CVシリーズ」(写真下)、リード線形「LVシリーズ」



アルミ電解コンデンサに使用される陰極材料を表-1に示す。 一般のアルミ電解コンデンサは、電解液と呼ばれる液体を製品内部に含み、電極間をイオン伝導で電荷が移動する。 それに対して近年開発された導電性高分子は、電子伝導により電解液の1万倍もの高電導度であることから 、固体電解コンデンサ用の材料に選定されている。
加えて、熱分解温度の比較においても表-1に示す差が見られる。 近年、環境問題から鉛フリーはんだが導入され、電子部品がはんだ付け工程で受ける熱は高温化しており、 電子部品自体の高温度対応が求められている。特に、電子部品をセット基板に溶融はんだで接続するリフロー工程では、 電子部品を搭載した基板全体を250℃以上の高温下に晒す必要があり、 鉛入りはんだを使用した実装より電子部品自身が受ける熱ストレスが大きくなっている。 従って、様々な導電性高分子の中から、PPy(ポリピロール)やPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)のように、 熱安定性の高い導電性高分子が主に採用されている。


導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの内部構造を図-1に示す。 内部構造には、電解液を使用した一般的なアルミ電解コンデンサと大きな違いはない。異なる点は、 内部に使用している電解質が固体(導電性高分子)であるか液体(電解液)であるかという点だけである。 従って一般的なアルミ電解コンデンサの生産技術 (巻取、組立)を活用し、製造出来る利点がある。

【表-1 : 陰極材料の種類と電導度】

【図-1 : 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの内部構造】


導電性高分子アルミ固体電解コンデンサへの市場要求として、以下の二つが挙げられる。


1)信頼性(長寿命化)
導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは、一般のアルミ電解コンデンサと異なり電解液を使用しておらず、 電解液が封口部より蒸散してコンデンサ内部が乾いてしまう、 いわゆる「ドライアップ現象」は発生しないため、長寿命が期待出来る製品である。 また、一般のアルミ電解コンデンサは低温ではイオン伝導能が落ちるため抵抗が上がるが、 電子伝導の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは低温でも抵抗が一定である。 よって常温と同様な特性を広い温度帯で保持できるため、屋外使用の機器や車載用途にも適している。
当社は製造工程の見直しにより、導電性高分子の形成方法を改良。加えて素子設計及び部材構成の見直しによる最適化を行い、 従来の105℃品を超える125℃保証を実現した125℃3000時間保証のチップ形「CXシリーズ」(※1)、 同リード線形「LXシリーズ」を開発した。「CXシリーズ」のサイズは、φ6.3×6L~φ10×12.7Lmm、 定格電圧16~50V、静電容量範囲5.6~390μFをラインアップしている。「LXシリーズ」のサイズは、 φ8×9L~φ10×13Lmm、定格電圧16~50V、静電容量範囲22~390μFをラインアップしている。 用途は車載のほかに高い信頼性を求められる産業用CPUボード、 部品交換サイクルを延長したい産業機器など多岐にわたり、 市場要求に対する導電性高分子アルミ固体電解コンデンサのメリットを活かしたソリューションとなっている
※1:φ6.3品は1500時間保証

2)高耐電圧化
一般アルミ電解コンデンサの定格電圧は、誘電体の耐電圧と、電解液の耐電圧によって設定されている。 高電圧対応のコンデンサが必要であれば、厚い誘電体を形成した陽極電極箔と、高耐電圧の電解液を組み合わせることで、 定格電圧700Vまでのアルミ電解コンデンサが上市されている。
導電性高分子アルミ固体電解コンデンサについても、定格電圧を設定する考え方は同じである。 セット機器メーカでは、回路電圧の約1.5倍~2倍を電圧変動における安全率と設定し、 回路設計を行っている場合が多く、例えば24Vラインに搭載されるコンデンサへの耐電圧要求は35V~50Vとなる。
当社は製造工程の見直しにより、導電性高分子の形成方法を改良。 加えて素子設計及び部材構成の高耐電圧化を行い、 定格電圧を100Vまで拡大したチップ形「CVシリーズ」とリード線形「LVシリーズ」を開発した。 サイズは「CVシリーズ」がφ6.3×6L~φ10×12.7L、定格電圧16~100V、 静電容量範囲5.6~470μFで、「LVシリーズ」がφ8×9L~φ10×13Lmm、定格電圧16~100V、 静電容量範囲6.8~470μFをラインアップしている。
市場では導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの特長に魅力を感じながらも、 最高定格電圧に余裕がないために導入出来ない回路が多く存在している。 今回の定格電圧範囲の拡大は、これまでの導電性高分子アルミ固体電解コンデンサが使用されている回路だけでなく、 より広範な回路へのブレーク・スルーを可能にする。当社では更に高い電圧への展開を視野に入れ開発を続けている。

今後の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサに求められる特性として、以下が挙げられる。

1)低ESR化
特長を伸ばす要求として、高周波におけるESR低減がある。 抵抗が低いことでリプル電流による発熱を抑えることができる。 電解コンデンサにとっての発熱は、直接的に寿命へ影響する要因であり、発熱が低いことはそのまま長寿命化につながる。 当社では、チップ形「CKシリーズ」リード線形「LEシリーズ」を始めとする超低ESR品を上市している。

2)小形・大容量化
セット機器の小形・薄形化が進む中、セット機器メーカは、部品の小形化を常に要求している。 同一静電容量であれば、より小形の製品を求められ、同一サイズであれば、より大きな静電容量が要求される。 当社では、同一サイズにおいて標準品の約3~4倍の容量を得られるチップ形「CGシリーズ」、 リード線形「LGシリーズ」を上市しており、同一容量比較においては1~2ランクの小形化を実現している。


3)高耐電圧化
導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは、電源回路を中心に採用が進んできたが、 その他のデジタル機器、車載機器、産業機器にも採用が広がり、高耐電圧化への要求が高まっている。 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの特長である、 低ESR特性を保ちながら高耐電圧化を図った製品が求められている。 上述の「CV、LVシリーズ」などは従来にない領域であり、他種コンデンサの置き換えだけでなく新規機種の検討も進んでいる。

巻回型導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは、 単位面積当たりの静電容量が他のコンデンサに比べて大きいという特長もある。 高さ方向のスペースを有効活用し、 少ない部品搭載数で要求を満たせる巻回型導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは、 タンタル固体電解コンデンサや積層セラミックコンデンサと比較して、 単位面積当たりの静電容量集積率が高く、セットの小型化と低コスト化を目指したセット機器メーカの開発方向にマッチした製品である。
導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは、薄型テレビなどのデジタル家電やコンピュータのマザーボードなど、 広範囲に使用されている。また、演算処理の高速化を実現したマルチコアシステムや、 ブルーレイディスク機器など、最新機器から要求される特性に適用できる点が多く考えられ、 将来に向けての期待は大きい。当社は、市場分野の拡大に向けて、 さらなる小形・大容量、低ESR、高耐電圧、高信頼性、高温度対応化に向け取り組んでいく。



ニチコン福井株式会社 技術課 山内 大平
2011年8月18日付 電波新聞掲載

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