導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの最新技術動向

アルミ固体電解コンデンサでは、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)を代表とする耐熱性・電導度の高い“導電性高分子”が固体電解質としてコンデンサに使用され、上市されてから30年以上が経過した。パーソナルコンピュータや家庭用ゲーム機を中心にその市場は飛躍的に拡大し、市場規模の拡大と共にニーズも多様化している。当社においてもニーズに対応すべく製品開発を行っている。
本稿では、巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサにおける最新技術について紹介する。

■巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサについて
一般的なアルミ電解コンデンサの素子構造【図1参照】を示す。陽極箔、陰極箔の間にセパレータを介して巻き取った素子に、電解液を保持させている。導電性高分子タイプも電解液タイプも基本的な素子構造は同じであり、内部に使用している電解質の性能が異なっている。使用する材料が固体電解質であるため、電解液タイプのコンデンサと比較して、以下のメリットがあげられる。

1)低ESR
固体電解コンデンサで一般的に使用されているPEDOTの導電機構は電子電導であり、イオン電導を導電機構としている電解液と比較すると、その電導度は高く約1万倍となる。そのため、大幅な低ESR化が可能となる。さらに製品の低ESR化は、温度上昇が低減できるので許容リプル電流の増大にも繋がっている。

2)温度特性
固体電解質PEDOTは金属性の電子伝導の特長を有しており、その温度特性は低温度側にて抵抗が僅かに上昇する程度である。よってそれを用いた製品特性においても温度依存性は小さく幅広い温度範囲にて安定した製品特性を有する。

3)長寿命
固体電解コンデンサでは電解液タイプのコンデンサにて認められる電解液が蒸散する「ドライアップ現象」が発生しない。よって、その製品設計内容および、使用環境次第ではメンテナンスフリーに近い寿命も期待できる。


図1.巻回形アルミ電解コンデンサの素子構造

図1.巻回形アルミ電解コンデンサの素子構造



■市場動向
近年、カーエレクトロニクス技術の進展と、EV/HV(電気自動車/ハイブリッド車)の台頭により、電子制御ユニット(ECU)の数は増加しており、自動車に搭載される電子部品の需要も高まっている。特に、車載向けの高耐熱アルミ電解コンデンサの製品化が活発である。車載用電子回路はこれまで車室内に搭載されていたが、最近ではエンジンルーム内へ移行される(機電一体化)ことが主流となってきた。自動車の駆動系ECU の省電力化、長寿命化を狙う目的で、高耐熱、高リプル対応、高耐電圧といった高い信頼性が求められている。

高信頼性が求められる市場は、車載分野に限った話ではない。固定ブロードバンドアクセスや移動体通信サービスの拡大に伴い、ネットワーク環境はますます複雑化、高度化している。それを支える基盤として通信インフラの整備が世界各地で進んでいる。基地局のユニットも小型化が進み、搭載される部品については小形化が要求されるとともに、筐体内の高温度化への対応が必要になってくる。また、頻繁なメンテナンスが困難なため、長寿命製品の要求が高まっている。

■「PCHシリーズ」および「PCLシリーズ」
前述のとおり、アルミ電解コンデンサには今まで以上に高温度・高耐電圧対応、小サイズ化の要望が高まっている。車載、産業機器、通信基地局、医療機器や民生機器等への幅広い要求に対応するために、当社では業界初135℃保証の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「PCHシリーズ」【図2参照】および業界最高レベルの105℃ 20000時間保証の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「PCLシリーズ」【図3参照】を市場投入した。

以下にPCHシリーズおよびPCLシリーズの仕様について説明する。

PCHシリーズのサイズ体系はφ8×7L~φ10×12.7L、定格電圧範囲は25~63V、静電容量範囲は22~470μF、カテゴリ温度は―55~135℃である。許容リプル電流値は700~2200mArms(at 135℃ 100kHz)であり、耐久性の保証は135℃ 4000時間である。現行のPCRシリーズの耐久性の保証125℃に対して10℃高温化を図った【図4参照】。
PCLシリーズのサイズ体系はφ5×6L~φ10×12.7Lmm、定格電圧範囲は4~16V、静電容量範囲は22~2700μF、カテゴリ温度は―55℃~105℃である。許容リプル電流値は1000~5600mArms(at 105℃ 100kHz)であり、耐久性の保証は105℃ 20000時間である。現行のPCSシリーズの保証寿命5000時間に対して4倍の20000時間へ長寿命化を図った【図5参照】。
PCHシリーズはアルミ固体電解コンデンサとしては業界最高の135℃保証品であり、PCLシリーズの保証寿命は業界最高水準である。これらは、製造プロセスおよび使用部材の最適化を行うことで実現した。

今後も、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサに求められる要求はますます高くなり、市場も拡大していくものと推測されている。特に自動車市場は堅調に推移しており、自動運転等の普及によって電装化、高機能化は加速していく。こうした技術動向を見据え、当社では導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの高耐熱・高耐電圧化および高容量化に着手している。高耐熱・高耐電圧化については既存シリーズの開発で培った導電性高分子をはじめとする要素技術を用いて、高温度品の開発および既存シリーズの定格拡充を進めている。高容量化については各材料の薄手化および高容量箔の採用により対応していく。
新製品のラインアップや定格/サイズ拡充を進めていくことで国内外問わず、民生から車載まで幅広いニーズに対応していく。


図2.PCHシリーズ

図2.PCHシリーズ


図3.PCLシリーズ

図3.PCLシリーズ


図4.PCHシリーズ耐久性保証比較

図4.PCHシリーズ耐久性保証比較


 図5.PCLシリーズ保証寿命比較

図5.PCLシリーズ保証寿命比較

ニチコン株式会社
2019年1月9日付 電波新聞掲載

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