巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの最新技術動向

はじめに

固体電解質を用いたアルミ電解コンデンサが商品化されて、約25年が経過しようとしている。当初、特に低ESR ※を特長とした画期的なアルミ電解コンデンサとして登場した。その後TCNQ※より電導度の高いPPy(ポリ・ピロール)やPEDOT(ポリ・エチレン・ジオキシ・チオフェン)等の「導電性高分子」を固体電解質とした新たなアルミ固体電解コンデンサが上市された。導電性高分子アルミ固体電解コンデンサはPCや家庭用ゲーム機を中心とした市場に於いて飛躍的に採用数量を延ばし、2007年には年産約30億個を超える市場にまで拡大した。その後2008年秋のリーマンショックを発端とする世界同時不況の影響で生産数量は一時的に減少したものの、2009年秋のWindows7の発売を契機にして、市場は再び急速な立ち上がりを見せてきている。また導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは、通信機器・産業関連機器・車両関連機器等の市場へも普及し始めている。
本稿では、巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサに於ける最新技術について紹介する。

高耐電圧 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサリード線形「LVシリーズ」

高耐電圧 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサリード線形「LVシリーズ」(写真上)、
チップ形「CVシリーズ」(写真下)



巻回形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサについて
一般的な電解液タイプのアルミ電解コンデンサの素子構造を図1,2に示す。リード端子を付加した陽極電極箔,陰極電極箔の間にセパレータを介して巻回し、このセパレータに本来の陰極材料としての電解液を保持させている。導電性高分子タイプも基本的な構造は同じであり、内部に使用している陰極材料が、電解液から導電性高分子という固体電解質に替わっているという点が異なっている。
電解液タイプのコンデンサと比して導電性高分子タイプのコンデンサは以下のメリットがあげられる。


1)低ESR
電解液は電解質中のイオン伝導である為、その電導度は溶媒和を考慮した溶質のストークス半径※に概ね依存するが、電導度の改良は限界に近づいていると考えられている。一方、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサで一般的に使用されているPEDOTは電子伝導性であり、その電導度は電解液に比べて約1万倍であることから、製品の大幅な低ESR化と定格リプル電流値の増大を実現できるようになった。

2)温度特性
電解液はイオン電導であることから低温になるに従い電導度が低下するため、製品では低温での静電容量減少及びESR増大といった特性悪化につながる。しかしながらPEDOTは電子伝導であることから、広い温度範囲に渡り安定な電気特性を有している。したがって電解液タイプのコンデンサを使用した回路設計においては、低温での静電容量変化及びESR値の増加を考慮する必要があるが、導電性高分子タイプのコンデンサでは、その必要性は少ない(図3)。

3)長寿命化
導電性高分子タイプのコンデンサでは、電解液タイプのコンデンサのような電解液の蒸散による「ドライ・アップ現象」が発生しない。一般的に電解液タイプのコンデンサは「10℃ 2倍則」という温度-寿命特性があるが、導電性高分子タイプのコンデンサに於いては「20℃ 10倍則」が成り立つと言われている。すなわち、同じ105℃保証品であっても実使用環境が85℃の場合、電解液タイプのコンデンサの期待寿命は4倍になるのに対し、導電性高分子タイプのコンデンサの期待寿命は10倍と長寿命化が図れる。

図1:アルミ電解コンデンサの素子構造

図1:アルミ電解コンデンサの素子構造

図2:等価回路からみたアルミ電解コンデンサの素子構造 R:セパレータの抵抗+電解液若しくは導電性高分子 Da,Dc:陽極電極箔及び陰極電極箔の酸化皮膜による整流作用 Ca,Cc:陽極電極箔及び陰極電極箔の静電容量 Ra, Rc:陽極電極箔及び陰極電極箔の酸化皮膜の内部抵抗 La,Lc:+及び-リードのインダクタンス

図2:等価回路からみたアルミ電解コンデンサの素子構造



「LVシリーズ」及び新「CVシリーズ」
PCや家庭用ゲーム機を中心に採用が進んできた導電性高分子アルミ固体電解コンデンサではあるが、それらの回路で使用される製品は16V以下の低耐電圧品が中心であり、特に低ESR化が求められてきた。
一方、通信機器・産業関連機器・車両関連機器等に於いては、低ESR特性と共に35Vを超える高耐電圧品が求められる市場である。これまで導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの一般的な上限定格電圧は25Vであり、25Vを超える定格電圧は実現されていなかった。


アルミ電解コンデンサの定格電圧を決定するのは、誘電体皮膜と電解液の各々の耐電圧である。高耐電圧のコンデンサが必要であれば、厚い誘電体皮膜を形成した陽極電極箔と、高耐電圧の電解液を組み合わせればよい。
この考え方は基本的には固体電解コンデンサでも同様であり、高耐電圧品を実現するためには厚い誘電体皮膜を形成させた陽極電極箔と高耐電圧の導電性高分子を用いれば良いことになるが、導電性高分子自体の耐電圧は40V程度しか無いため、保証温度や安全率を勘案して製品設計すると、定格電圧は25V程度となってしまう。素子内の導電性高分子層形成方法を変更して安全率を軽減すると、ある程度の高耐電圧化は図れるが、それでも35V程度が上限である。すなわち導電性高分子の耐電圧がそのまま製品の耐電圧に直結しているのである。


固体電解質である導電性高分子のPEDOTは、ドーパントであるp-Tos(パラ・トルエン・スルホン酸)と酸化剤である鉄イオンを内在している。固体電解コンデンサの高耐電圧化を検討する中で、ドーパントと鉄イオンが深く関わっていることが判明した。

当社では、上記知見に基づく導電性高分子を採用するとともに、セパレータ、誘電体皮膜等の素子構造の最適化を図り、2009年9月に定格電圧を50Vまで高めたリード線形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ「LVシリーズ」(写真1)を上市した。
また来る2010年春には、定格電圧63V品の追加と共に大容量化を図ったアップグレードも予定している。更に、より高密度実装化が進むセット機器の小型化に寄与できるようにチップ形「CVシリーズ」も上市する予定である。
現在の「LVシリーズ」は、サイズ:φ8×9L~φ10×13L,定格電圧:16V~50V,静電容量範囲:82μF~220μFをラインアップしている(表1)。また「CVシリーズ」は、サイズ:φ6.3×6L~φ10×12.7L,定格電圧:16V~50V,静電容量範囲:5.6μF~220μFを予定している。なおこの「CVシリーズ」についても、今後63V品の追加と共に大容量化を図る。

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサには軽減電圧は不要であるが、回路設計では定格電圧を回路電圧の数倍とする安全率を見込んだ設計をすることが多く、回路電圧が25Vを超える用途だけでなく、回路電圧が25V以下であっても安全率を見込んだ設計がなされている用途にも上記シリーズの採用が進むと思われる。また「LVシリーズ」は、リード線形導電性高分子アルミ固体電解コンデンサの標準品である「LFシリーズ」のサイズφ10×13mm、定格電圧25V品で比較すると、「LFシリーズ」は56μFであるが、「LVシリーズ」は120μFを収納しており、2倍以上の大容量化を図っている(表2)。このように「LVシリーズ」は大容量化による対応周波数の広帯域化等も可能になり、高耐電圧化とともに幅広い回路設計を可能にしている。

図3:温度-ESR特性

図3:温度-ESR特性

表1:アルミ固体電解コンデンサ「LVシリーズ」ラインアップ

表2:同一サイズでのスペック比較

おわりに
導電性高分子アルミ固体電解コンデンサに対する市場要求は、これまでの低ESR化だけではなく、この度紹介した耐高電圧化の他に、長寿命化,耐高温度化といった高信頼性製品、更には大容量化/大サイズ化が望まれている。当社ではこれらニーズに対応できるよう、引き続き製品開発を進めていく。


※語句説明
TCNQ:7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン
ESR (Equivalent Series Resistance):等価直列抵抗
ESL (Equivalent Series Inductance):等価直列インダクタンス
ストークス半径:物質とそれに配位した物質を一つの球として考えたときの仮想的な半径。
        電解液タイプではイオン伝導体とそれに配位した溶媒が該当する。



ニチコン福井株式会社 開発課 大月 輝喜
2010年1月28日付 電波新聞掲載

一覧に戻る