強磁場発生装置用大型コンデンサバンクシステムの最新技術動向

■まえがき

ニチコンは、強磁場物性研究に必要な強磁場発生装置へ瞬時大電流を供給するコンデンサバンクシステムを1970年代から大阪大学理学部へ納入しており、大阪大学への納入以降、東京大学物性研究所や、東北大学金属材料研究所など国内の強磁場研究施設のコンデンサバンクシステムをほぼ一手に引き受け、日本の強磁場物性研究が世界的業績を上げることに貢献してきた。
このたび、大阪大学大学院理学研究科附属先端強磁場科学研究センターに、国内最大規模の10MJのエネルギーを蓄積、放電できる強磁場発生装置用大型コンデンサバンクシステムを納入したので紹介する。


■開発環境

強磁場物性研究における競争は世界的に激しくなっており、これまでは欧州、米国、日本の3カ国がしのぎを削っていたが、近年は中国が最先端の設備を建設して研究を加速している。この分野において世界をリードする研究をしてきた日本が、今後も世界的業績を上げるため、日本学術会議が「学術の大型施設計画・大規模研究計画マスタープラン」の中に「強磁場コラボラトリー計画」を挙げている。これは、国内の主要な強磁場研究拠点である、大阪大学の先端強磁場科学研究センター、東京大学の国際強磁場科学研究施設、東北大学の強磁場超電導材料研究センター、物質・材料研究機構の強磁場ステーションの4つの研究機関を有機的につなげることで、全国共同利用・共同研究をこれまでよりも容易にし、計測・装置開発などの技術基盤の整備と人材の育成・確保を有効に推進するためのものである。

強磁場コラボラトリー計画に従って、全国共同利用・共同研究が行える強磁場施設の実現を目指し、10MJという大容量のコンデンサバンクシステムを用いた強磁場施設を大阪大学の先端強磁場科学研究センターに導入することになり、ニチコンがコンデンサバンクシステムを設計製作し、2014年3月に納入した。


■コンデンサバンクシステムの概要・特長

先端強磁場科学研究センターの目的は物性研究であり、図1に示すような大型大口径パルス磁石を開発され、最高60テスラ、発生時間100ミリ秒の磁場を発生させることが可能で、ダイヤモンドアンビル型圧力セルなどと組み合わせた複合極限環境(超強磁場、超高圧、極低温)を実現し、未踏の測定環境での新奇な物理現象の発見と機構解明を目指している。
表1に今回納入したコンデンサバンクシステムの仕様、図2にシステム構成、図3にシステムの外観写真を示す。
本コンデンサバンクシステムは、放電出力を10系統に分割し、使用コンデンサバンク、電圧などを自由に設定することで、多種多様な電磁石(負荷コイル)に必要な電流を供給できる設計としており、様々な物性研究が可能になっている。

【表1】 コンデンサバンクシステム仕様

【図1】 大型大口径パルス磁石(先端強磁場科学研究センター様ご提供)

【図1】 大型大口径パルス磁石(先端強磁場科学研究センター様ご提供)

【図2】 基本回路構成

【図2】 基本回路構成

【図3】 コンデンサバンク

【図3】 コンデンサバンク



■コンデンサの特長

大容量のコンデンサバンクシステムは、強磁場研究用以外では加速器用電源などの用途があり、ニチコンではコンデンサバンクシステムに必要な直流コンデンサから開発を行っている。コンデンサバンクシステムに用いられる直流コンデンサは、急放電を可能とするため低インピーダンス化が重要な要素である。しかしながら、コンデンサバンクシステムでは使用電圧が高電圧となることから、絶縁のための離隔距離が必要であることや、誘電体フィルムの絶縁強度の限界から構造的に大きくなるため、低インピーダンス化は非常に難しい。ニチコンでは、誘電体フィルムの絶縁強度の限界を引き出すために、誘電体フィルム表面に形成する蒸着電極を独自の蒸着パターンとするとともに、誘電体フィルムの巻き取り方法を工夫することで、直流高圧でエネルギーの密度が高く、かつ急放電が可能な低インピーダンスのコンデンサを開発した。


■まとめ

ニチコンは、1970年代から強磁場用のコンデンサバンクシステムを大学、研究機関とともに開発してきており、日本の強磁場研究が世界的に高い評価を得る一翼を担ってきた。強磁場研究は、これまで欧米と日本が中心であったが、近年は中国の参加で競争が激しくなり、日本学術会議のマスタープランに沿った強磁場コラボラトリー計画の一環として、昨年度に大阪大学の先端強磁場科学研究センターに10MJのエネルギーを蓄積できる国内最大規模のコンデンサバンクシステムをニチコンが納入した。今回のシステムにより日本の強磁場研究がより一層の成果を挙げることを期待している。 

ニチコン株式会社
2014年8月21日付 電波新聞掲載

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