環境エネルギー関連新技術・製品の最新技術動向

■まえがき

 ニチコンは、「より良い地球環境の実現に努め、価値ある製品を創造し、明るい未来社会づくりに貢献します。」を経営理念に掲げており、深刻な社会問題として議論される地球温暖化の解決に向け、エネルギーの安定供給と環境保護の両立を目指し、経営トップ直轄の組織として2010年3月にNECST(Nichicon Energy Control System Technology)プロジェクトを立ち上げた。
 東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故以降、エネルギーの安定供給と環境保護の両立が、より切実かつ急務であると社会の意識も大きく変化してきている。こうした状況を受けてニチコンでは、NECSTプロジェクトの具体的取り組みテーマとして次の3つを掲げている。

①再生可能エネルギーの増大
②スマートグリッドを構成するインテリジェントな制御ができる分散型電源
③エコカーとしてEVや、そのインフラ関連機器
 ここでは、NECSTの商品群とそこに至る経緯とこれらを支える最先端技術を紹介する。

■スマートグリッドを構成する自立分散電源の例

 現在の電力系統は、大規模発電所から一方通行で系統の末端に電気エネルギーを送っているが、自然エネルギー、とりわけ太陽光発電のように発電規模が小さいものでは発電ポイントが系統の末端に多く接続されることになり、発電の分散化によるエネルギーの地産地消が進む。これは遠距離送電によるエネルギー損失を抑制して省エネが進むことや、各地域で需要と供給のバランスが取れるメリットがある反面、系統全体の制御が難しくなる。
 そうした問題を解決するには、スマートグリッドとして情報通信技術を駆使して系統全体の制御を行うことと、末端に設置される発電ポイントの分散電源そのものが、系統の状況によりインテリジェントな動作が出来ることと、エネルギーの需給をそのポイントでバランスさせられる蓄電機能を持つことが求められる。
 当社は、電気二重層コンデンサを蓄電デバイスとして用いた電力のピークカットのできる蓄電機能付太陽光発電システムを本社屋上で、8年以上稼動しており、また、風力発電の発電変動を吸収するリチウム電池を用いた蓄電システムもNEDOの支援事業として開発してきた。その技術を用いて、山梨県のPR施設ゆめソーラー館で、太陽光発電と蓄電池を組み合わせ、PR館の電力を全て賄い、さらに電気自動車にも充電するシステムを実用化した。

 このシステムは、さらに小水力発電や、燃料電池も併設されており、それらの電力も合わせて蓄電できるマルチ入力、マルチ出力の分散電源である。【写真1】
 具体的には太陽電池パネルが20kW、水力発電が1.5kW、32kWhのリチウム電池と3MJを併用した蓄電システムおよび30kWの急速充電器を本体に収納し、PR館で展示して稼動させている。電気自動車への急速充電は、屋外にスタンドを設置して行なえるようにしている。このシステムの全景を【写真2】に示す。このシステムの特徴は、自然エネルギーで発電した電力をDC/DC変換して蓄電し、交流に変換してPR館の負荷に供給すると共に急速充電器には電池から直流供給することで総合効率を高め、省エネを図っていることである。このシステムは、自然エネルギーを蓄電することで、自立運転が可能になり、災害時の非常用電源、非常用急速充電器としても利用でき、現下の電力不足や、自然災害の多い日本のインフラ整備に役立つと期待している。

【写真1】 分散電源の外観

【写真1】 分散電源の外観

【写真2】 山梨県米倉山メガソーラー PR館 ゆめソーラー館

【写真2】 山梨県米倉山メガソーラー PR館 ゆめソーラー館

■EV用超小型急速充電器

 日本は低炭素社会実現のため、世界に先駆けてEV開発およびEVの充電インフラ整備を推進してきた。すでに国内外のメーカからCHAdeMO方式による製品が提供され、1,800基以上の充電インフラ整備がなされている。ニチコンは、EVに搭載されているリチウムイオン電池に充電する車載用充電器の世界初の開発メーカであり、この充電器は現在量産されているEVの多くのメーカに採用されている。【写真3】
 この技術を応用した世界最小・最軽量のEV用超小型急速充電器を4機種(50kW,30kW,20kW,10kW)ラインアップして、充電インフラ整備に貢献している。【写真4】
 リチウム電池は、単体の電圧が3.7Ⅴと低く、ハイパワーを得るには、100個近く直列接続するため、それらを管理する為のバッテリーマネジメントシステムが不可欠であり、リチウム電池への充放電は、車載充電器、急速充電器を問わず、このBMSと情報交換しつつ行なうことが要求され、現状、CHAdeMO方式による通信方式が国内では標準になっている。

【写真3】 車載充電器

【写真3】 車載充電器

【写真4】 超小型急速充電器

【写真4】 超小型急速充電器

■双方向充電・給電システム(V2Hシステム)

 EV搭載の大容量蓄電池を使って家庭に電力を供給する双方向充電・給電システム「EVパワーステーション」はEVから家庭に電力を供給するV2H(Vehicle to Home)システムである。【写真5】
 この「EVパワーステーション」は、安価な夜間電力を蓄電し、その電力を昼間の時間帯にシフトして家庭内電力に使用できる機能があり、昼間の電力ピークシフトへの貢献と同時に電気料金の節約が可能である。さらに家庭の200V電源で充電する場合と比較して最大2倍のスピードで充電することが可能である。
 本システムは、電力系統に逆潮流せず、完全自立で一般家庭の電力を賄うことが可能である。
 家庭用蓄電システムとともに自然エネルギーの有効活用や、ピークカットによる電力不足対策に加えて災害時の非常用電源としても活用が出来、安心安全の確保にもなる。

【写真5 】EVパワーステーション

【写真5】 EVパワーステーション

■家庭用蓄電システム

 太陽光発電と蓄電システムとの連携で売電量を最大にするとともに、割安な深夜電力を貯めて昼間使うことで電気料金を低減できる。また、停電などの非常時に安心できる電力バックアップを可能にする。さらに、太陽光発電との連携で電力の地産地消を行いCO2削減に貢献できることをはじめ、昼間の最大電力使用時にピークカットを行い、電力需給バランスに寄与する効果がある。
 技術的な先進性としては、標準的な使用条件下で、夜間電力契約での昼間の高い電力代を蓄電電力で賄える 7.2kWhの大容量の蓄電容量に加え、電池を増設して14.4kWhとさらに大容量にすることも可能にしており、車載充電器等で培った充放電制御技術を活かして、リチウム電池の特性を最大限引き出し、長寿命設計をしている。さらに、停電時には自動的に自立運転に切替わり、太陽光と電池電力を活用した電力使用が可能で、復電後も自動的に通常運転に切替わって、安全・安心を確保している。

【写真6】 家庭用蓄電システム

【写真6】 家庭用蓄電システム

■環境エネルギー関連商品を支えるハイテク技術とその源流

 ニチコンは、NECSTプロジェクト発足後、前記のような商品群を開発してきたが、それを支えるハイテク技術は、40年以上関わってきた加速器などの最先端設備用高機能電源によるところが大きい。加速器は、電子や陽子を光の速さ近くまで加速し、それらを用いて物質を構成する素粒子の研究や、加速した電子から放射される強力な放射光を用いて物質のミクロな状態を見ることを通じて半導体や、医薬品の開発に貢献している。これら加速器では、高精度の電源が要求され、そうした世界最先端のハイテクノロジーの応用として高い充放電精度を要求されるリチウム電池の生産ラインに使用される高精度充放電電源を1990年代に開発し、納入してきた。そうした技術の蓄積が車載充電器の開発に活かされ、さらに急速充電器に発展した。
  一方、瞬時電圧低下対策として当社製品であるEDLCを用いた瞬低補償装置を産学、産産連携により短期間で開発し、小型軽量、長寿命で省エネ効果を評価頂き、経済産業大臣賞を受賞し、さらにその発展形態としてリチウム電池を用いた風力発電の発電変動を吸収するシステムをNEDOの支援事業として開発するなど系統と蓄電システムを双方向で高速に変換して系統を安定化する高度な技術を蓄積してきていた。
  NECSTプロジェクトが短期間に環境エネルギー関連の商品を矢継ぎ早に開発できた背景にこれらの技術蓄積が大きな働きをしている。これを図解したものを示す。

【図】 環境エネルギー関連製品を支えるハイテク技術とその源流

【図】 環境エネルギー関連製品を支えるハイテク技術とその源流

■まとめ

 ニチコンのNECSTプロジェクトの目的である「エネルギーの安定供給と環境保護の両立」は、21世紀世界が直面する大きな課題であり、それを解決することは、社会的使命である。スマートグリッドによる電力系統の高度な管理と自然エネルギーを有効活用できる蓄電機能を備えた分散電源など発電の分散化によるエネルギーの地産地消を組み合わせることで、系統全体の柔軟性と効率向上が両立することが期待されている。当社は、長年加速器関連電源などで培ってきた最先端パワーエレクトロニクス技術と高度な系統連系技術を駆使して環境エネルギー関連商品を開発することで、明るい未来社会づくりに貢献し、低炭素社会と安心な社会の実現を加速する一助となることを期待している。

ニチコン株式会社

2013年2月7日付 電波新聞掲載

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