自動車用コンデンサの最新技術動向

 自動車分野におけるアルミ電解コンデンサの用途は、(1)パワー系(2)ボデー系(3)情報系に大別される。この中でもパワー系及びボデー系は、使用環境条件の厳しさから、自動車および電装メーカーの要求性能に応じて、カスタム設計された専用品を搭載している場合が多い。同市場で豊富な実績を持つアルミ電解コンデンサではあるが、近年、自動車用途の特殊性に起因する新たな開発要素も増えて来ている。ここでは、自動車市場分野に向けたアルミ電解コンデンサの技術開発トレンドを記す。

■高温度対応

 当社の高温度対応シリーズラインアップを表1に示す。



 ボデー系用途、すなわちエンジンルーム内に搭載される電装ユニット(電動パワーステアリングユニット、ECUユニット)、また、最近需要が急増しているディスチャージ方式のヘッドランプ用途において、高温度対応及び長寿命化といった高信頼性要求が強くなってきている。当社はこの分野に向け、チップ及びリード線タイプの高温度対応品をシリーズ化しており、豊富な実績を持つ。一例として150℃対応品「BXシリーズ」を写真1に示す。
 一方、パワー系用途の代表であるハイブリッドカー、燃料電池車のモータ駆動インバータ用平滑コンデンサにおいても高温度対応のニーズが高まっている。この背景には、SiC半導体等の高耐熱パワー素子開発をトリガーとして、インバータの効率化(冷却システムの簡素化及び管理温度の高温度化によるユニットの小形・軽量化、コストダウン)を狙うニーズがあると考えられる。現在ハイブリッドカー及び燃料電池車に搭載されている平滑コンデンサは85℃品または105℃品のネジ端子形アルミ電解コンデンサである。しかし、今後、高耐熱パワー素子の採用に伴って、ユニットの機内温度は現在の70~80℃を大きく超えるものと考えられ、125℃品あるいはそれ以上の使用温度に対応する商品開発が急務となっている。当社はこのような市場ニーズに応えるための要素技術開発として、高耐熱電極箔、高耐熱電解液の開発に注力している。高耐熱電極箔として新たなエッチング方式を採用し、高温度下での漏れ電流を極限まで低減した高安定誘電体皮膜を持つ電極箔を開発、また、長寿命品用に開発した高耐熱電解液を併せて採用することにより、業界に先駆け125℃対応の高耐熱性品「HTシリーズ」(125℃2000時間保証、写真2)を開発、昨秋より供給を開始した。この製品の用途としては、機内温度上昇対応の他、従来の105℃品からの置き換えによる、機器の長寿命化としても需要がある。



■高電圧化

 ハイブリッドカー、燃料電池車のモータ駆動インバータ用平滑コンデンサにおいて、回路電圧の上昇に伴う高電圧対応要求がある。現在量産されている高圧バッテリー(144~288V)採用のハイブリッドカーが搭載する平滑コンデンサは、定格電圧350~450Vの範囲にある。この電圧はバッテリー電圧とIPMのDC入力電圧から決定されて来た経過がある。しかし、次世代ハイブリッドカーの開発では、動力性能の向上を目的として、より高いDC入力電圧で動作するモータ駆動方式が模索されており、この検討過程から従来の最高定格電圧550Vを超えて使用可能な平滑コンデンサが求められている。
 ところで、アルミ電解コンデンサの電極箔に形成される誘電体は酸化アルミニウムであるが、高電圧用電極箔の製造方法は、一般的に硼酸アンモニウム溶液中に、コンデンサの電極となるアルミ箔(前加工としてエッチング処理が施されている)を浸漬して電圧を印加し、陽極酸化反応によって誘電体皮膜を形成している。この製造方法に基づく工業的に成立する耐電圧限界は、従来600~700V(定格電圧換算で450~550V)といわれてきた。当社は前述の様な高電圧品ニーズに対応すべく、製造方法を新たに開発、約1000Vの耐電圧を有する誘電体皮膜形成を実現した。この技術を基に当社は昨年3月、世界初となる定格電圧630V品「NXシリーズ630V」の量産を開始している。写真3は、現在サンプル生産から量産への移行を進めている定格電圧750V品の電極箔断面SEM観察写真である。従来よりも誘電体厚みが厚くなる分だけ孔径を太くしなければならない制約条件下でも、孔密度を高めて、必要な静電容量を確保している。

写真3「750V用電極箔断面」



■耐振動性能

 アルミ電解コンデンサへの耐振動性能向上もニーズが高い。面実装のチップ品では20~30Gへの対応がユーザーから要求されており、対応技術の確立にコンデンサ各社は凌ぎを削っている。主たる補強ポイントとしては(1)アルミ電解コンデンサ本体と樹脂板との取り付け強度アップ(2)プリント基板接続における補助端子増設の2点が中心となっている。大形アルミ電解コンデンサにおいても耐振動性能についての向上要求があったが、従来、大形アルミ電解コンデンサは、コンデンサ素子をアルミケース内部で保持するために熱可塑性の樹脂を充填しており、高温中で樹脂が軟化して素子固定保持力が低下する問題を内包していた。しかし、耐振動性能の向上を検討した結果、樹脂充填方式に代わる新しい素子固定構造を採用することで、特に高温度雰囲気中で改善効果を得ている。



■環境対応

 EU(欧州連合)は、ELV:End-of Life Vehicles(使用済み自動車)に関するEU指令により、EU地域で2003年7月1日以降に登録される新車について、鉛、六価クロム、水銀、カドミウム(適用除外有り)の環境負荷物質を使用禁止する案を採択している。これを受けて、アルミ電解コンデンサにおいても規制対応に向けた仕様問い合わせが増えて来ている。脱PVCを含めた当社環境対応仕様について表2に示す(水銀、カドミウムは未使用)。



■その他要求性能

 情報系での要求性能として、ここで2つのニーズに触れておく。1つは実装効率改善のための低背化ニーズである。当社はチップ形アルミ電解コンデンサにおける豊富な市場実績とこれまで培ってきた生産技術力を駆使して、従来の最低背品(製品高さ3.95mm)を一挙に24%低背化した3.00mm品「ZDシリーズ」(85℃1000時間保証、写真4)を開発、市場へ投入して好評を得ている。
 もう一つ、アルミ電解コンデンサに特有の性能要求として、近年、車載オーディオ機器に向けて、音質の良いアルミ電解コンデンサのニーズが強くなってきている。音質は電源回路と密接な関係があり、クリーンで安定した電圧を回路に供給することが重要とされている。従来からもアフターマーケット向けのマニア指向商品において高音質ニーズは存在していたが、ここに来て、CD/MD一体の2DINユニットや、ナビゲーション一体型AVNタイプ等の自動車メーカーライン装着タイプにおいても高音質化の要求がある。この背景には、自動車のエンジンや車外騒音に対する遮音技術が向上してきており、静寂性の保たれた空間で良質な音楽を楽しみたいという自動車購入ユーザーの希望を反映している。ニチコンは、高級ホームオーディオの世界で培ったアルミ電解コンデンサの高音質化に関するノウハウを豊富に有しており、チップ形、リード形アルミ電解コンデンサにおいてもオーディオ品のラインアップを充実させている。



■まとめ

 自動車における省エネ技術は、ハイブリッドシステムに代表されるパワー系用途のみならず、ガソリン車においても従来の油圧駆動によって構成されていたボデー系システムをバイワイヤシステムへと転換する取り組みが本格化している。また、CANに代表される情報系の電装化が進む自動車分野は、アルミ電解コンデンサにとって高い需要の見込める市場分野である。この市場に向けて、小形・大容量というアルミ電解コンデンサのメリットを最大限生かした商品開発に取り組んでいる。

ニチコン株式会社 長野工場
技術部 石田雅彦

2003年4月10日付 電波新聞掲載

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