車載用アルミ電解コンデンサの最新技術動向

■はじめに

 アルミ電解コンデンサは大きな静電容量の製品を比較的安価に提供でき、定格電圧の範囲も2~700V前後と幅広い。このような背景から様々な分野で利用されており、それぞれの分野に対応すべく形状も、チップ形、リード線形、基板自立形、ネジ端子形と多様である。

 近年では自動車の電装化により、車載用途に向けたアルミ電解コンデンサの採用が著しく進んでいる。とりわけ、チップ形、リード線形の製品がよく使用されている。(以下、これら二つのタイプについて述べる。) 自動車には高い安全性、優れた快適性そして環境への配慮が求められており、これらの要求に応えるためには様々な電子制御システムを駆使して自動車をコントロールしなければならない。加えて、安全性、居住性の向上も目覚ましい進化を遂げている。これらの自動車の様々な機能をコントロールする電子制御機器ECU(Electronic Control Unit)の数量は増加傾向にあり、自動車1台あたりに搭載されるECUの数量は近年100個を超える事例もある。ECUの機能集約による統合、高密度実装なども進んでいるが、搭載されるECUの数はまだまだ増え続けることが予想される。このように自動車に必要不可欠となったECUであるが、ひとことにECUといってもその役割は様々であり、それに付随する部品についても求められる性能は多種多様に渡る。一例を挙げると、EV/HV(電気自動車/ハイブリッドカー)などに使用される電池監視ユニットに搭載されるアルミ電解コンデンサは定格電圧400Vもの高耐電圧品が求められる。一方で、緊急時にエアバッグを作動させるための制御ユニットに使用されるコンデンサの主な定格電圧は25~35Vと比較的低い電圧であるが、10,000μFを超える大容量が求められる場合もある。また、エンジン周辺で動作するECUは高温にさらされるため最高使用温度が125℃、135℃といった高温度対応や、エンジンの振動に対応するための耐振動構造化が求められる。更には、ECUの小型化、電源回路へ大電流を供給するため、コンデンサには小形化と高リプル対応も求められる。また、寒冷地で使用するため低温雰囲気下でも一定の特性保証が求められる場合もある。次節ではこれらの要求に対応するためのアルミ電解コンデンサについて述べる。

■車載用アルミ電解コンデンサの要求とその対応

(1) 耐振動 外部からの振動に対して対策を施していないコンデンサを使用すると、基板と端子の接地面を支点として振動し基板から製品が外れてしまう、または封口されたゴムとリードを支点として内部の素子が振動し内部で断線が生じる。この様な不具合を回避するため、チップ形では主に座板側壁の高さを調整しコンデンサ本体の振動を抑制する、座板に補助電極を設け基板との固着性を高めるという2つの改良が施されている。通常品と耐振動構造品を【写真1】に示すがこれらの改良により、耐振動構造品は30G(10~2,000Hz)の耐振動性能を保証している。

写真1 チップコンデンサの形状(通常品と耐振動構造品)

(2) 小形化、高リプル電流対応 

 ECUの小型化に伴い限られた空間内で要求される静電容量を持ったアルミ電解コンデンサを提供するためには、コンデンサの小形化、高容量化は大きな課題のひとつである。小形化、高容量化を達成するための手法としては、高容量箔の適用、薄手化材の適用、構造面の見直し、の3つが主となる。また、電源回路への大電流供給に対応するため、アルミ電解コンデンサは高リプル電流対応が必要となる。一般的にコンデンサにリプル電流が流れると発熱し電解液の蒸散または劣化が起こり、寿命が低下する。そのため、コンデンサには流すことのできるリプル電流を製品毎に定格リプル電流として規定している。高リプル電流対応のコンデンサはこれらの規定値を高く設定できるような工夫を施している。手法としては、製品のESRを下げる(ESRが大きいほどリプル発熱温度が高くなる)、放熱性能を高めてコンデンサ内部の熱を逃がす、発熱に耐えうる部材を使用する、の3つが主となる。
 以下に小形化高容量、高リプル電流対応として当社が開発した「UBYシリーズ」、「UCVシリーズ」について述べる。

(2)-1.高温度対応高容量・高リプル リード線形アルミ電解コンデンサ「UBYシリーズ」 

 「UBTシリーズ」は自動車分野を中心として非常に多く使用されてきたが、市場要求の更なる高リプル、高温度、高容量化に対応すべく業界最高レベル「UBYシリーズ」【写真2】を開発した。

写真2 「UBYシリーズ」外観写真

◆特長

 自動車の電子制御化に伴い電子部品機器の搭載位置は車室内もしくはその近辺からエンジンルーム付近へ移行し、省スペース化、高温度化が求められている。これらの要求に対応するため高倍率陽極箔の採用により現行の「UBTシリーズ」から最高3倍の高容量化を実現、また高温度領域での安定性に優れた電解液および耐久性に優れた封口ゴムの適用により現行の「UBTシリーズ」から2倍以上の高リプル化を実現することに成功した。「UBYシリーズ」の採用により各種制御ユニットの省スペース化、高効率化が可能となる。【表1】

【表1】UBY、UBTシリーズ同一サイズでの電気特性比較

◆仕様

 「UBYシリーズ」の主な仕様は以下のとおりである。
ケースサイズφ12.5×20L~φ18×40Lの15サイズ、カテゴリ温度範囲-40~135℃、耐久性3,000時間、定格電圧範囲25~50V、定格静電容量範囲620~12,000μF。

(2)-2.105℃対応低インピーダンス規定 チップ形アルミ電解コンデンサ「UCVシリーズ」
 セット機器の小型化、高性能化に最適な105℃低インピーダンス品「UCMシリーズ」はこれまで多く採用されていたが、市場の更なる小形化、高容量化に対応すべく業界最小クラスの「UCVシリーズ」【写真3】を開発した。

写真3 「UCVシリーズ」外観写真

◆特長

 車載用における高密度実装化のためチップ形アルミ電解コンデンサの需要は高まっており、これらコンデンサについては、低インピーダンス化、小形化、高容量化を求められる。これらの要求に対応するため高倍率陽極箔の適用、薄手化陰極箔の適用、薄手化電解紙の適用と使用部材の最適な組合せを行い、現行の105℃低インピーダンス規定チップ形アルミ電解コンデンサ「UCMシリーズ」から1ランク高容量化し業界初の高容量レベルを実現することに成功した。「UCVシリーズ」の採用によりセット機器当たりの員数削減、省スペース化が可能となる。【写真4】

写真4 「UCVシリーズ」員数削減一例

◆仕様

 「UCVシリーズ」の主な仕様は以下のとおり。
ケースサイズφ6.3×7.7L~φ10×10Lの3サイズ、カテゴリ温度範囲-55~105℃、耐久性105℃2,000時間、定格電圧範囲25~35V、定格静電容量範囲220~1,000μF。

(3) 低ESR化対応

 高リプル電流対応のひとつとして低ESR化の手法を述べたが、近年車載用途では-40℃雰囲気下といった低温度での低ESRの要求がある。寒冷地などでエンジンを始動する際、雰囲気温度は-40℃に到達する場合があり、このような雰囲気下でエンジンが動作しなければ人命に関わる可能性もある。また、コンデンサの経年劣化に伴いESRは一般的に大きくなる傾向にあるが、ESRが大きく変化して機器が作動しないといったトラブルを避ける必要がある。そこで、当社では-40℃の低温度でのESRについて初期値だけでなく、耐久性試験後の値について保証したシリーズをいくつかラインアップしている。その中で、当社が開発した耐久性試験後のESR変化を抑制した「UCHシリーズ」について述べる。

(3)-1. 125℃対応耐久性試験後ESR規定 チップ形アルミ電解コンデンサ「UCHシリーズ」
 「UCZシリーズ」はこれまで125℃対応耐久性試験後低温ESR規定品としてラインアップしてきたが、更なるESR変化の抑制を実現した製品として業界最高レベルの「UCHシリーズ」【写真5】を開発した。

写真5 「UCHシリーズ」外観写真

◆特長

 前述のとおり電子部品機器の搭載位置は車室内もしくはその近辺からエンジンルーム付近へと移行している。エンジンルーム付近ではエンジンからの輻射熱にさらされるのに加え、寒冷地での使用時には外気温の影響で低温にもさらされるため、低温から高温までの車載環境下への適応および低ESR化が求められる。これらの要求に対応するため、低蒸散かつ低抵抗電解液を独自で開発、更に内部構造の最適化により現行の125℃低ESR規定チップ品「UCZシリーズ」から更なる低ESR化を実現した。【図1】

図1 UCH、UCZシリーズ 同一サイズでのESR比較

◆仕様

 「UCHシリーズ」の主な仕様は以下のとおり。
ケースサイズφ6.3×7.7Lの1サイズ、カテゴリ温度範囲-40~125℃、耐久性125℃2,000時間、定格電圧35V、定格静電容量範囲47~100μF。

■車載用アルミ電解コンデンサの今後の展開

 車載用アルミ電解コンデンサの今後の展開は自動車電装を主として展開されていくと考えられる。自動車の電装化が進んでいるだけでなく、EV、HVに加えて、FCV(燃料電池自動車)などの電気で駆動する自動車が拡大してくる中、これらを制御する電子機器はますます重要な役割を担うと予想される。以上、車載用アルミ電解コンデンサの技術動向であるが、当社はユーザーの期待に応えるため現状に留まることなく、新しい製品の開発を進めていく。

ニチコン株式会社
2016年8月18日付 電波新聞掲載

一覧に戻る