進相用コンデンサの最新技術動向

電力用コンデンサは約80年前アメリカで工業的に製作されて以来、誘電体材料の開発や製造技術の進歩により大幅な小形化、高性能化が図られてきた。ところが近年では地球的規模で環境の改善が必要となり、地球環境に優しいコンデンサが注目されるようになってきた。
ここでは、最近の技術動向と新しい進相コンデンサについて当社の製品を例に紹介する。

●コンデンサ誘導体の変遷

 高圧進相コンデンサの変遷は表-1に示すように、紙と鉱物油を用いたものが実用化され約80年経過している。

この間、誘電体材料の開発はめざましく、ポリプロピレン(PP)フィルムと紙の組み合わせや含浸剤として、ポリ塩化ビフェニ-ル(PCB)の開発実用化によりコンデンサの大幅な小形化、低損失化が図られてきた。

 しかし、PCBは環境汚染物質として使用が禁止された。そこで、可燃性の芳香族炭化水素を採用されたが、誘電率が低く、コンデンサは若干大形化した。
そして、表面を粗面化したPPフィルムが開発され、紙を使用せずPPフィルムのみで構成したNH(Non-Selfhealing)形オールフィルムコンデンサが実用化され、更に低損失、小形化が図られた。また、NH形オールフィルムコンデンサに対して、紙の両面に真空蒸着電極を設けた電極紙とPPフィルムとを巻回したSH(Self-Healing)形コンデンサが実用化され信頼性は向上した。

 しかし、これらはいずれも油入式コンデンサであり、かつ可燃性絶縁油が採用されているため、火災防災上の点より受変電設備のオイルレス化が望まれる様になってきた。このため高圧進相コンデンサもPPフィルムに蒸着電極を設けた金属化PPフィルムによるSF6ガス絶縁方式のSH形コンデンサが実用化され、コンデンサのオイルレス化が図られるようになった。ところが、1997年の地球温暖化防止京都会議でSF6ガスが排出抑制対象ガスに指定されたのをうけ環境にやさしいN2ガス入り乾式高圧進相コンデンサが開発されている。



●最新の技術動向

 油入り高圧進相コンデンサとしてはSH方式が主であり、紙の両面に真空蒸着した電極紙とPPフィルムとを巻回してコンデンサ素子を構成し、絶縁油を含浸している。このため誘電体が局部的に破壊しても瞬時に絶縁が回復し、引き続き使用できるため信頼性の高いコンデンサとなっている。

  また、この油入りSH方式高圧進相コンデンサは、万一の絶縁破壊や寿命末期では上記の局部的破壊が連続して発生するので、内部圧力が徐々に上昇し、内蔵された機械式ヒューズが動作して自己遮断する保安装置が内蔵され、安全性の高いコンデンサとなっており、その原理を図-1に示す。



 ところが高圧進相コンデンサも防災上の観点より、オイルレス化が強く望まれていた。このため金属化PPフィルムを巻回したコンデンサ素子を直並列結線してSF6ガスを充填したSF6ガス絶縁方式高圧進相コンデンサが製品化された。

 このコンデンサは油入式SH方式高圧進相コンデンサと同様誘電体が局部的に破壊しても瞬時に絶縁が回復するため信頼性の高いコンデンサとなっている。

  また、万一の絶縁破壊や寿命末期には連続して局部的破壊が発生するため内部圧力が上昇し、圧力上昇検出スイッチの動作により、回路が開放され、安全が確保されるようになっている。この様にSF6ガス絶縁方式高圧進相コンデンサは、受変電設備機器のオイルレス化に寄与し、防災性、安全性の高いものであった。

  この、SF6ガスは電気特性が優れ、不燃性で安全性の高いガスであるが、地球温暖化防止に関する1997年12月京都での「第3回気候変動に関する国際連合枠組条約締結会議(COP3)」において地球大気温度上昇などから排出抑制対象の6つのガスの1つとなった。

 このため、地球環境改善の点からSF6ガスを全く使用しないコンデンサが望まれるようになり、2000年2月にはこれを実現するため窒素(N2)ガスを充填した地球環境に優しいN2ガス入り乾式高圧進相コンデンサが製品化された。

  次項に防災形N2ガス入り乾式高圧進相コンデンサについて詳細を紹介する。

●防災形N2ガス入り乾式高圧進相コンデンサ”GeoDRY”について

 受変電設備機器のオイルレス化と環境問題からくるSF6ガスレスのニーズに応えた防災形N2ガス入り乾式高圧進相コンデンサ”GeoDRY”の製品写真を図-2に、また、特長、性能などを以下に示す。

  尚、製品名「GeoDRY」は地球にやさしい製品として(ギリシャ語で地球という意味)のGeoと乾式を意味するDRYを付加してGeoDRYと名付けられている。



3-1 金属化PPフィルム

  誘電体を構成するPPフィルムは、きわめて優れた電気特性を有している。
  このPPフィルムの表面にごく薄い蒸着電極を設けた金属化PPフィルムを採用したコンデンサは、絶縁欠陥部で局部的絶縁破壊を生じても蒸着電極が消失して自己回復するため、フィルムの優れた絶縁性能を100 %利用している。

3-2 構造

 素子を集合してユニットを角形鋼板製ケースに収納しており、万一の故障時には内部圧力上昇検出スイッチが動作する。が、このスイッチが未接続で電源が開放されなかった場合のバックアップとして安全弁を備えた二重保護装置付構造としている。

3-3 特長

 乾式高圧進相コンデンサの新シリーズ”GeoDRY”はSF6ガスを全く使用しない地球環境に優しい画期的な新製品で、その特長を下記に示す。

(1)SF6ガスを全く使用していない。
ケース内は窒素ガスを充填し、SF6ガスを全く使用しない地球温暖化防止に寄与できる環境に優しい設計としている。

(2)高い信頼性
金属化PPフィルムを使用し、これを巻回したコンデンサ素子を直、並列接続した構成としているので、絶縁欠陥部で局部的絶縁破壊を生じても、良好な自己回復性が得られ、フィルムの優れた絶縁性能を100 %利用している。

(3)低損失、低温度上昇
誘電体は低損失のPPフィルムのみで構成しているので、低損失であり、温度上昇も低く抑えた設計としている。

(4)大容量化
設備容量300 kvarまでシリーズ化している。

(5)取付スペースの節減
当社従来品とほぼ同等の体積であり、狭いビル内の受変電設備としてもより使い易い設計としている。

(6)メンテナンスフリー
ケースは全溶接構造で、完全気密構造としており、メンテナンスフリーで安心して使用できる設計としている。

(7)安全性
万一、故障が発生してもガス圧の上昇を検知して動作する圧力上昇検出スイッチを取り付けており、さらに圧力上昇検出スイッチが未接続でこれにより電源が開放されなかった場合でも安全弁が作動してケース破裂を防止する保護装置付構造としている。

3-4 特性

 乾式高圧進相コンデンサGeoDRYの特性は、優れた性能を有することが確認されており主な特性は下記に示す。

(1)静電容量変化率-温度特性
静電容量変化率-温度特性は図3の通りで、全温度域で少ない傾向を示している。



(2)損失-温度特性
損失-温度特性は図4の通りで、全温度域において低損失で乾式ポリプロピレンフィルムコンデンサの特長が表れている。



(3)温度上昇特性
温度上昇試験の一例を図5に示すが、実使用上十分な値を有している。



(4)耐用性
連続耐用性試験の結果の一例は図6に示す通りであり、定格電圧×1.2倍の過電圧連続課電にて5 000時間余り実施するも、静電容量の減少及び誘電正接の変化は僅小であり、きわめて安定している。



(5)放電特性
GeoDRYはすべて放電抵抗内蔵形で、端子開放後その残留電圧を5分間に50 V以下とする。

●今後の展望

 以上、高圧進相コンデンサの最近の技術動向と最近のオイルレス高圧進相コンデンサを紹介した。この結果SF6ガスを使用しない環境対応型高圧進相コンデンサの特性は良好であることが確認されている。しかし、このオイルレス高圧進相コンデンサは油入式と比べ体積が大きくコスト高であり、油入式を含めさらに高信頼性で安価なコンデンサの開発が望まれる。

2000年7月3日  電波新聞掲載

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