電気二重層コンデンサの最新技術動向

■はじめに

小形の電気二重層コンデンサは、約30年前から生産が行われ、主にメモリバックアップ用として幅広く使用されている。近年、世界的に環境対策や省エネに対する様々な技術が注目を集めるようになり、電気二重層コンデンサにおいても、中形、大形品が開発され、これらは電気二重層コンデンサの特長(高出力、高信頼性)を生かした瞬時電圧低下補償装置、分散電源用蓄電バンク、物流搬送機の回生エネルギーの蓄電用途などに多用されてきている。今後、エネルギー有効利用の向上対策として、さらなる低抵抗化による急速充放電や大電流充放電への対応とともに、小形化や長寿命化が必要になる。このような電気二重層コンデンサの利点を生かす開発を進めることにより、電池とのすみ分け、または組み合わせによってさらに需要が広がると考えられる。


■巻回形電気二重層コンデンサ

電気二重層コンデンサの素子構造は積層形と巻回形に大別される。積層形電気二重層コンデンサは、薄型で内部抵抗が低いといった特長がある。これに対して巻回形電気二重層コンデンサは、効率よく電極を対向させることができ、安定した特性や高い信頼性と効率よい生産性を併せ持つ。巻回形は、形状が円筒形であることから、実使用においてデッドスペースが発生するが、大電流充放電時の放熱経路として有効にこのスペースを活用することができる。
巻回形電気二重層コンデンサの基本構造を図1に示す。巻回形は、活性炭電極と集電極で構成された電極とセパレータを重ね合わせて巻き芯軸で巻き取ることから、短時間で製造が可能であり、生産性が高い構造となっている。また、内部抵抗を低減するために、集電極と外部端子との接続にアルミ引き出しタブを多数とする電極引き出し構造や集電極厚みの確保にも配慮が必要となる。

図1 巻回形電気二重層コンデンサの素子基本構造



巻回形の電極には、アルミニウムの集電極の両面に活性炭電極を形成する電極と片面だけに活性炭を形成する電極がある。両面電極を用いた場合の巻き取り方法は、集電極にアルミ引き出しタブを取り付けた後に、活性炭電極を形成する方法と、アルミ引き出しタブを取り付ける場所の活性炭電極を、局所的に取り除く方法がある。どちらも有効な方法だが、手順が増えるうえ、多数のアルミ引き出しタブを取り付ける場合、タブ相互の位置精度を出すことが難しい問題があった。一方、片面電極では、集電極のアルミ面にアルミ引き出しタブを取り付ける。当社は、集電極のアルミ引き出しタブを取り付けた面が互いに向かい合うように合わせた2枚の片面電極を重ね合わせて巻き上げる構造を採用した。この構造により、活性炭電極を形成した電極に順次アルミ引き出しタブを取り付けながら巻き取ることが可能になり、集電極厚みの確保、多数のアルミ引き出しタブの採用とで、高い生産性と内部抵抗の低減を両立している。


■超低抵抗型電気二重層コンデンサ

低炭素社会実現のため、ピーク電力カットや電力回生の要求が高まっている。電気二重層コンデンサには小形軽量で急速充放電、大電流充放電への対応が求められているが、大電流を取り扱う場合、内部抵抗による損失(発熱)対策が問題となる場合が多い。内部抵抗損失はIRで表され、電流値の二乗で作用するため取り扱う電流が小さい場合には問題ないが、電流が大きくなるに従いその影響も大きくなる。また、大電流を繰り返し充放電する過酷な使用状況において、高い信頼性を確保出来ることも重要なポイントとなる。特性としては小形で大電流が流せること、つまり、高信頼で低抵抗な(内部抵抗と静電容量の積(Ω・F)で表す時定数の小さい)電気二重層コンデンサが求められていると言える。
電気二重層コンデンサの内部抵抗は、活性炭電極の電極内部抵抗と集電極-外部端子間の構造抵抗に大別できる。当社が今般開発した「超低抵抗型電気二重層コンデンサ」(以下、開発品)は、新たに開発した低抵抗電極と低抵抗電解液を採用することで電極内部抵抗の低抵抗化を図り、集電構造の最適化とあわせて、製品の超低抵抗化を実現した。

開発品は、活性炭電極の細孔構造をはじめとした各種パラメータを調整することで、従来の電極と比べて大幅な低抵抗化を図った。同時に、標準溶媒のプロピレンカーボネート(PC)系電解液に対し新規溶媒を採用することで、イオン電導度を向上させた。活性炭電極と電解液の改良により、電極面積を拡大することなく電極内部抵抗の低減を図った結果、電極の時定数で比較すると、従来電極2.2(秒)に対して、低抵抗電極は0.5(秒)と、約77%の低抵抗化を達成した。(図2)

図2 低抵抗電極の時定数



構造抵抗の低減には、電流経路の断面積を大きく、長さを短くすることが重要である。つまり、集電極厚みの確保とアルミ引き出しタブの本数、取り付け位置、幅、厚みなどがポイントであると言える。巻回形の高い生産性を保持したまま、これらのパラメータを最適化することで、開発品では構造抵抗を従来品と比べて約30%下げることが出来た。
電極内部抵抗および構造抵抗を低減した結果、従来品の時定数2.4(秒)に対して、開発品は0.5(秒)を達成した。開発品*の外観写真を写真1に示す。(* サイズ:ø35×68Lmm、定格静電容量:165F)

写真1 超低抵抗型電気二重層コンデンサ



図3は開発品を50Aの大電流で放電した際の放電波形で、図中の点線は、2.25V~1.75V(0.9E~0.7E)の放電波形を直線近似した近似線である。(この近似線のy切片が接線法における電圧ドロップとなる。)放電波形から拡散抵抗の影響が0.1秒程度で収束しており、応答性が非常に高いことがわかる。この高い応答性は、低抵抗電極と低抵抗電解液の効果である。50A放電時の放電開始直後の電圧ドロップは約0.15Vであり、直流内部抵抗(DCR)は約3mΩとなる。試験に供した開発品の静電容量は165F、DCRは3mΩであることから、製品の時定数は0.5(秒)となる。開発品の製品としての時定数と、使用した低抵抗電極の時定数とが同等であることから、構造抵抗の影響が非常に小さいことが確認できた。また、放電波形から算出した開発品の出力密度『マッチドインピーダンス法(または理論最大出力) PMAX=V/4R V:最大電圧または定格電圧(V) R:内部抵抗(Ω)』は、8.0kW/Lと非常に高い値を示している。

図3 超低抵抗型電気二重層コンデンサの放電波形



また充放電時間と充電効率および放電効率の関係を図4に示す。従来のネジ端子形電気二重層コンデンサ(ø35×85Lmm:400F,6mΩ)では、90%の充電効率を得るためには、約45秒の充電時間が必要であるが、開発品の場合は、約10秒で90%の充電効率に達する。つまり、充放電時間を約77%短縮できたと言える。この結果は、時定数の小さな開発品は短時間に、大電流で充放電した際にも、非常に高い効率が得られることを示している。

図4 充放電時間と充電効率、放電効率の関係



以上のような特性から今般開発した超低抵抗型電気二重層コンデンサは、瞬時大電力を必要とするピークカット、パワーアシスト、電力回生(短時間大電力)などへ適応することで、エネルギー利用効率の向上、CO排出量の低減を実現し、低炭素社会構築に大いに貢献できると期待される。


■今後の展開

今後、低炭素社会の構築、省エネ化、CO排出量の削減に向け、ピーク電力カット、パワーアシスト、電力回生など、ますます電気二重層コンデンサの需要が高まってくると予想される。このような急速かつ大電流の充放電を必要とする市場に向けて、超低抵抗型電気二重層コンデンサの知見を生かし、「高信頼」、「低抵抗」をキーワードにさらなる高容量化、低抵抗化に取り組み、客先ニーズに最適な製品開発を進めていく。



ニチコン株式会社 長野工場 電気二重層コンデンサ部 横島 克典
2010年8月19日付 電波新聞掲載

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