電気自動車用充電システムの最新動向と普及に向けて

■まえがき

昨年末に発足した新政権は、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を基本方針として掲げ、3本の矢としている。この方針に基づき、次世代の自動車である電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV)のインフラ整備を一気に加速させる政策として平成24年度補正予算「次世代自動車充電インフラ整備促進事業」(1,005億円)が国会で可決された。
ニチコンは、こうした政策を先取りするように、これまでEV関連機器やインフラである急速充電器の開発を進めてきた。現在日本で販売されている量産EVにニチコンの車載充電器が採用されており、その実績と技術を急速充電器に応用することで、画期的な超小型急速充電器を製品化し、ラインアップしている。上記補助制度の紹介とその対象であるEV用急速充電器とこれに関連するシステムや最新技術を紹介する。


■次世代自動車充電インフラ整備促進事業

国会は、平成24年度補正予算で「次世代自動車充電インフラ整備促進事業」を可決した。この事業は、EVやPHVに必要な充電インフラの整備を加速することにより、設備投資等を喚起するとともに次世代自動車の更なる普及を促進し、日本経済の下支えをすることを目的としている。具体的には、充電器の購入とその工事費用を一部補助する下記4つの事業が対象となる。

  1. 自治体等が策定する充電器設置のためのビジョンに基づき、かつ公共性を有する充電設備の設置には、充電設備機器費及び設置工事費を含めて2/3の補助をする。
  2. ビジョンには基づかないものの、公共性を有する充電設備の設置には、充電設備機器費及び設置工事費を含めて1/2を補助する。
  3. マンションの駐車場及び月極め駐車場等へ設置する充電設備には、充電設備機器費及び設置工事費を含めて1/2を補助する。
  4. 上記以外の充電設備の設置は、従来どおり、充電設備機器費の1/2を補助する。


ほとんどの自治体では現在ビジョンを策定中であり、その発表を受けて、設置場所や設置事業者の申請が始まる予定である。


■急速充電器の働きと規格

急速充電器は、交流を直流に変換する数十kWの大容量電源であり、しかも直流500Vという高電圧を出力する。そのため、特別のコネクタでEVに接続することでその安全を確保しつつ、EVに搭載されたリチウムイオン電池に大電流を供給する。一方、EVに搭載されたリチウムイオン電池の状態は、バッテリーマネジメントシステム(BMS)が常に監視して安全性と信頼性を確保しており、急速充電器は、このBMSと通信をすることでその安全を確かめながら充電する。
BMSと急速充電器の通信プロトコルの共通化を、車メーカ、電力会社、充電器メーカなどで構成するCHAdeMO(チャデモ)協議会が中心になってとりまとめており、現在量産されているEVおよび今後、国内メーカが発売するEVへの急速充電方式における事実上の標準になっている。

チャデモ協議会では、これを世界の標準にしていくことを目指して国際標準化機関に働きかけており、欧米においてもチャデモ協議会が決める仕様で急速充電器を商品化する電源メーカが既に数社ある。欧米でもチャデモ方式の急速充電器が増加しているが、一方で欧米の車メーカ8社から新たに充電口の異なるCOMBO方式が提案されている。
日本は、メーカ各社が中心となって先進的なEV開発を行い、世界に先駆けて急速充電方式についてチャデモ方式として標準化を推進し、インフラ整備においても先導的な役割を果たしてきた。今後、さらにチャデモ方式の急速充電器の普及を加速し、世界標準になることを目指して活動していく。


■EV用超小型急速充電器

日本は低炭素社会実現のため、世界に先駆けてEVの量産化およびEVの充電インフラ整備を推進してきた。すでに国内外のメーカからチャデモ方式による急速充電器が提供され、2,400基以上の充電インフラ整備がなされている。ニチコンは、EVに搭載されているリチウムイオン電池に充電する車載用充電器の世界初の開発メーカであり、ニチコン製車載用充電器一体型DC-DCコンバータ(写真1)や充電器は現在量産されているEVの多くのメーカに採用されている。
ニチコンは、この車載充電器の技術を応用した世界最小・最軽量のEV用超小型急速充電器(写真2)を4機種(50kW、30kW、20kW、10kW出力)ラインアップして、充電インフラ整備に貢献している。

【写真1】 車載用 充電器一体型DC-DCコンバータ

【写真1】 車載用 充電器一体型DC-DCコンバータ

【写真2】 EV用超小型急速充電器

【写真2】 EV用超小型急速充電器



■充電器の使い方

EV用急速充電器の使い方は、いたって簡単でしかも安全である。充電用コネクタをEVの充電口に差込み、充電器のスタートボタンを押すだけで充電が開始される。差し込み方は、写真3に示すようにガソリンの給油に似た差し方で、ロック機構のついているEVがほとんどなのでロックされたかどうかを確認するだけである。

【写真3】 充電コネクタの接続

【写真3】 充電コネクタの接続



充電が完了すると、EVからの指示で充電が停止し、充電器の操作画面に充電の完了と充電用コネクタの取り外し方が表示される。その画面に従って、コネクタを外して操作を終えることになる。もし、満充電までの時間が無い場合でも、途中で充電をストップして充電を終了することができる。


■関連システム(自立分散電源+急速充電)

ニチコンは、山梨県米倉山メガソーラーPR施設「ゆめソーラー館やまなし」(写真4)で、太陽光発電と蓄電池を組み合わせ、PR館の電力を全て賄い、さらにEVにも充電できるシステムを実用化した。このシステムは、小水力発電や燃料電池も併設されており、それらの電力も合わせて蓄電できるマルチ入力、マルチ出力の分散電源である。具体的には、太陽光発電が20kW、水力発電が1.5kW、燃料電池が0.7kW設置されており、32kWhのリチウムイオン電池と3MJの電気二重層コンデンサを併用した蓄電システムおよび30kW出力の急速充電器を分散電源本体(写真5)に収納し、PR館で展示して稼動させている。EVへの急速充電は、屋外に充電コネクタを設置している。このシステムの特長は、再生可能エネルギーで発電した電力をDC-DC変換して蓄電し、その電力を交流に変換してPR館の負荷に供給すると共に、急速充電器には電池から直流供給することで効率を高め、省エネを図っていることである。このシステムは、再生可能エネルギーを蓄電することで、自立運転が可能になり、災害時の非常用電源、非常用急速充電器としても利用でき、電力不足や自然災害の多い日本のインフラ整備に役立つと期待している。

【写真4】 山梨県米倉山メガソーラーPR施設「ゆめソーラー館やまなし」

【写真4】 山梨県米倉山メガソーラーPR施設「ゆめソーラー館やまなし」

【写真5】 分散電源の外観

【写真5】 分散電源の外観



■双方向充電・給電システム(V2Hシステム)

ニチコンは、EV搭載の大容量蓄電池を使って家庭に電力を供給する世界初の双方向充電・給電システム「EVパワーステーション」(写真6)を開発した。いわゆるEVから家庭に電力を供給するV2H(Vehicle to Home)システムである。この「EVパワーステーション」は、安価な夜間電力を蓄電し、その電力を昼間の時間帯にシフトして家庭内電力に使用できる機能があり、昼間の電力ピークシフトへの貢献と同時に電気料金の節約が可能である。EVの特長である静かで滑らかな走行や力強い加速に加えて、電力のピークシフトによるエネルギーの安定供給や非常時にも電力供給が可能になる安心の確保など、新たな価値を付加したことは画期的である。


「EVパワーステーション」の特長

  1. 夜に蓄電し昼に活用することにより、電力のピークシフトと節電に貢献。
  2. 日産リーフのリチウムイオン電池を家庭のバックアップ用電源として活用。
  3. 最短4時間でフル充電が可能。家庭の200V電源対比最大2倍のスピード。
  4. チャデモ方式の充電規格に準拠。
  5. 非常時に電力供給が可能となり安心の確保ができる。
  6. 電力系統と連系せず自立出力である。

【写真6】 EVパワーステーション

【写真6】 EVパワーステーション



■まとめ

EVは、将来の自動車であると言われてきたが、経済性や走行距離などの制約により実用化にはガソリン車の後塵を拝してきていた。しかし、近年の小型大容量電池とパワーエレクトロニクスの進化により小型軽量の車載充電器が開発され、一般家庭で充電できるようになったことで、CO2ゼロの走行ができるEVは一般ユーザに身近な存在となった。さらに、普及に必要なインフラとしての急速充電器も、政府主導のもと設置台数の拡大が加速されようとしている。当社が車載充電器で培った技術を応用して開発した超小型急速充電器は、当社従来品と比較して設置面積を半分にでき、重量も1/3に抑えることで工事費用を低減できる。さらに双方向充電給電システムであるV2Hを世界で初めて量産し、EVの新たな価値を付加した。こうした取り組みが、政府の方針に沿ってEVの普及とそのインフラ整備に貢献し、電力の安定供給および低炭素社会の実現を加速する一助となることを期待している。



ニチコン株式会社
2013年4月11日付 電波新聞掲載

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