■まえがき
当社は、「より良い地球環境の実現を目指して、価値ある製品を創造し、明るい未来社会づくりに貢献する」との経営理念に基づき、環境・エネルギー分野の製品を創造し、低炭素社会の実現に寄与するため、NECST(Nichicon Energy Control System Technology)事業本部を2013年11月21日に発足し、2018年度の売上1000億円を目指してビジネス展開している。
ここでは太陽光発電とリチウムイオン電池を組み合わせた避難所向け分散型電源と、それを応用した農業用充電ステーションを紹介する。
■避難所向け分散型電源
東日本大震災において、停電が長期化する中、避難所での生活に大きな支障をきたし、避難した人々が困窮したことは記憶に新しい。その反省に立ち、政府は東北地方の避難所に自立分散型電源設置を促進する復興予算を計上し、すでに一部で設置が始まっている。
当社は、従来から培ってきた蓄電技術、電力変換技術を用いて太陽光発電とリチウムイオン電池を組み合わせた分散型電源をいち早く開発し、山梨県米倉山メガソーラーのPR施設などで自立分散電源として実績を挙げてきている。この実績をもとに避難所向けにコストパーフォーマンスを高めた分散型電源をラインアップして、避難所に多数納入した。そのシステムの仕様を【表1】に写真を【図1】に示す。
【表1 分散型電源仕様】
【図1 避難所向け分散型電源】
この分散型電源は、太陽光発電で発電した電力を蓄電池に蓄えられることや、系統連系をして太陽光発電を系統に供給できる。また、通常時にはピークカットやピークシフトなど系統電力を抑制する機能をもつとともに、本来の目的である非常時には系統から独立して自立運転できるなど、状況に応じて多様な機能を発揮できるインテリジェントなシステムである。さらに避難所の規模に応じて変換器容量を選択できるように10kWと20kWの2種類用意し、設置場所を自由に選べるように屋内仕様と屋外仕様をラインアップしている。
■農業用充電ステーション
上述した避難所向け分散型電源を農業に応用したのが農業用充電ステーションである。当社は、三菱自動車工業株式会社様とコンソーシアムを結成し、農林水産省の「農村地域における未利用エネルギー利活用実証研究」として「電気自動車と農業用充電ステーションの組合せによる農業エネルギーマネジメントの実証研究」を実施している。その内容は、農業用充電ステーション、電気自動車、可搬式給電装置にて構成されたアグリネットワークシステム【図2】、【図3】を用いて、太陽光発電の電気エネルギーをリチウムイオン電池に蓄電し、系統電力に依存せずに電気自動車への急速充電を行い、電気自動車は、走行するだけでなく、必要に応じて給電装置を介して、ハウス栽培等に電力を供給するエネルギー輸送を担う。
更に災害により系統からの電気が途絶えても電気自動車へのエネルギー供給が可能となるとともに、給電装置を介して農業用機器もしくはハウス栽培等へ非常時の電力を供給できる。
この農業用充電ステーションは、未利用エネルギーである再生可能エネルギーを活用することで「農機具の電動化」や、「通信ネットワークによる発電や蓄電状況の把握」さらには「エネルギーの効率的運用」と「エネルギーの地産地消」ができる。TPPをにらんで日本の農業の高度化は待ったなしである。農業の競争力を高めるためにも1次産業である農業、2次産業である工業、そして3次産業である情報通信を組み合わせた6次産業化を進めるこのようなアグリネットワークシステムが望まれており、時宜を得たこのシステムが評価され、昨年のCEATEC AWARDで準グランプリを受賞した。
【図2 アグリネットワークシステム 全景】
【図3 本体】
■まとめ
東日本大震災の教訓を活かし、避難所に太陽光発電と蓄電池を備えた分散型電源の設置が急ピッチで進められており、安心、安全をエネルギー面から支えるシステムとして全国に展開すると期待している。 一方、TPPの締結をにらんだ農業分野の競争力強化も喫緊の課題であり、農業用充電ステーションと電気自動車、可搬式給電装置の組み合わせが農業の電動化に貢献するものと考えている。分散型電源は、大震災などの災害時に非常用電源としても利用でき、今後のインフラとして、CO2削減に加えてさまざまな用途に活用できる可能性を秘めており、こうしたインフラ整備や、農業の競争力強化に貢献することで、低炭素社会実現と安心な社会の実現を加速する一助になると期待している。
社会の課題を解決する価値ある製品を提供し、それが新たなビジネス、新たな市場を創出することで、当社が目指す明るい未来社会づくりに貢献できればと願っている。
ニチコン株式会社
一般社団法人 日本電機工業会 機関紙「電機(2月号)」掲載