今後、加速するIoT社会ではさまざまな分野で劇的な変化が期待されている。中でも自動車市場においてはADAS(Advanced Driver Assistance System)や自動運転に加え、さらなる快適性を生み出すコネクテッドカーが注目を集めている。当社は電動車両の駆動系や電装系、インフラ関連機器へのコンデンサの提案がその進展の一助となればと考えており、今回はそれぞれの分野のコンデンサの最新技術動向について紹介する。
■モーター駆動用フィルムコンデンサの最新技術動向
EV・HV・PHVの電動システムに搭載されるモーター駆動用フィルムコンデンサでは、主として厚さ数μmのポリプロピレンフィルムが誘電体として用いられ、表面に金属膜をパターン形成した蒸着金属化フィルムが使用されており、優れた電気的特性、高い安全性、高信頼性を有することが特長である。
モーター駆動用フィルムコンデンサには、小形化、長寿命化、低価格化が求められており、材料開発から最適構造設計まで一貫した製品開発が必要となっている。
① 誘電体フィルムの薄膜化による小形化
フィルムコンデンサの体積はフィルム厚みの2乗にほぼ比例することから、フィルムの薄膜化が必要不可欠である。現在、主として2.5μmのポリプロピレンフィルムが量産化されているが、次世代システムでは更なるフィルムの薄膜化開発が進んでいる。
② 蒸着技術開発による高耐電圧化、長寿命化
フィルムの薄膜化に伴い耐電圧も向上させる必要があるため、電極となる蒸着金属にパターンを形成し、小セグメントに区切り、各々の小セグメントをヒューズ部で接続することで、保安機構を持たせ、高い安全性を確立すると共に、高耐電圧化、長寿命化を図っている。
③ 構造設計の最適化
近年、有限要素法による解析技術が発達し、机上検討の段階からフィルムコンデンサの性能を予測することが可能となっている。従来の強度設計に加え、低インダクタンス化や熱設計においても解析精度を向上させることで、開発初期から構造設計の最適化が可能となり、量産時の低コスト化に繋がっている。
図1 モーター駆動用フィルムコンデンサ
図2 蒸着パターン
■車載、産業機器用導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ
近年、車載分野や産業機器分野において電子制御化や小形化が進んでおり、アルミ電解コンデンサが搭載される基板についても高性能化・高密度化が進んでいる。これらの要求に対応すべく当社では高温度・長寿命・高リプル対応となる導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ「GYAシリーズ」を開発・上市した。(2017年4月)
GYAシリーズは導電性高分子と電解液を融合したハイブリッド電解質を採用しており、独自の導電性高分子形成技術と導電性高分子に適合した電解液を採用することで、低ESR 性能と酸化皮膜修復性能を両立している。
サイズ体系はφ6.3×5.8L~φ10×10L、定格電圧範囲は25~63V、静電容量範囲は10~330μFとし、保証は125℃ 4000時間である。
今後、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサの使用用途が広がり、市場は拡大する方向に進むと考えられる。当社では更なる高容量・高耐熱・高耐電圧化等の要求に対応できるよう、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサの開発を加速させラインアップの拡充を図っていく。
図3 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ「GYAシリーズ」
■車載関連機器用チップ形アルミ電解コンデンサ「UCHシリーズ」の定格拡充
車載関連分野では機器の高性能化が進展していると共に、快適な車内空間を確保すべくエンジンルーム内やその周辺へ電子回路を配置することが多くなっている。また、搭載部品には過酷な温度環境への対応が求められると同時に高信頼性化が求められている。
この要求に対し、当社では耐久試験後の低温ESRを規定しUCZシリーズを上市したが、更なる小形・低ESR化を実現したUCHシリーズを開発した。
本製品は低蒸散性低抵抗電解液の採用や内部仕様の最適化にてφ6.3×7.7Lにより、従来品に比べ2000時間後のESR変化率を75%低減したことを特長としている。
サイズ体系はφ6.3×7.7Lに加え、φ8×10L、φ10×10Lサイズを追加した。定格電圧範囲35V、静電容量範囲は47~330μFである。
高密度実装化に伴い製品の小形・高容量化および高性能化の要求は常にあり、今後更なる高スペック化を図っていく。
図4 チップ形アルミ電解コンデンサ「UCHシリーズ」
■EV・PHV用急速充電器および車載充電器用の基板自立形アルミ電解コンデンサ
電気自動車(EV)の普及にともない、インフラ整備も進んできており、高速道路のパーキングエリアや日本各地にある道の駅、自治体の庁舎などにもEV・PHV用急速充電器(以降急速充電器)が設置されるようになってきている。急速充電器には基板自立形のアルミ電解コンデンサが搭載されており、コンデンサの定格電圧は450Vが主流で比較的小形で安価なものが好まれる傾向がある。当社のラインアップの中では、LGGシリーズ(105℃ 2000時間保証品)をご採用いただくことが多いが、更なる小形化の要求がある場合には、105℃超小形品のLGMシリーズ(105℃ 2000時間保証品)をご紹介している。LGMシリーズは、新規開発した高容量電極箔の他、耐久性に優れる電解液および電解紙を採用することで、業界最小クラスの製品サイズを実現しており、省スペース化を図った回路設計に最適なアルミ電解コンデンサとなっている。
図5 基板自立形アルミ電解コンデンサ「LGMシリーズ」
またEVに搭載される車載充電器にも基板自立形アルミ電解コンデンサが使われており、車載用ということで一般家電用や産業機器用のコンデンサよりも高い性能が要求される。厳しい温度環境や耐振動性能なども要求されるため、高信頼で長寿命のコンデンサを選択されることが多い。長寿命小形品のLGXシリーズ(105℃5000時間保証品)をベースに、振動条件が厳しい環境においては耐振性向上形状の端子を採用したり、絶縁性能が必要な場合には耐電圧性能に優れる外装スリーブを採用するなど、最適設計をおこなっている。
自動車市場の進展に向け、今後も様々なご要求に対応できるよう技術力をさらに磨き、より社会に貢献できる企業を目指していく。
ニチコン株式会社
2017年7月3日付 電波新聞掲載