■まえがき
CO2フリーの電気自動車(EV)の市場拡大のためには、(1)走行距離の延長、(2)車両の低価格化、(3)充電インフラの整備が重要である。EVへの充電方法は、EVの車載充電器を使用する普通充電と外部充電器を使用する急速充電がある。ここでは充電インフラの整備に必要なEV用急速充電器と充電・給電システムの最新技術について述べる。
■EV用急速充電器と課金システム
1)EV用急速充電器
日本は低炭素社会実現のため、世界に先駆けてEV開発およびEVの充電インフラ整備を推進してきた。日本の急速充電器の規格化は、東京電力が中心となってCHAdeMO方式として統一され、さらに国際標準方式として提案を行っている。すでに国内外のメーカーから製品が提供され、1,617基※の急速充電器によるインフラ整備がなされている。
当社は、EVに搭載されているリチウムイオン電池に充電する車載充電器の開発メーカーであり、当社の車載充電器は、現在量産されているEVのほとんどに採用されている。当社は、車載充電器の技術を応用した世界最小最軽量のEV用超小型急速充電器を4機種(50kW,30kW,20kW,10kW)ラインアップしている。すでに、自動車販売店、自治体、空港、道の駅などに設置され充電インフラ整備に貢献している。
当社の急速充電器は、通信モジュールが実装可能なように設計されており、充電インフラネットワークと接続することで、ユーザーの利用認証や使用履歴などが確認できるシステムへの対応が可能であり、後述する課金システムにも対応可能である。
<EV用超小型急速充電器>
2)太陽電池・蓄電池併用の低圧受電型EV用急速充電システム
50kWクラスの急速充電システムでは高圧受電が必要になるケースがあるが、当社は低圧受電でも急速充電可能なシステムを開発し、名神高速道路吹田サービスエリアに設置した。このシステムは、太陽光発電とリチウムイオン電池とを組み合わせた急速充電システムである。急速充電に必要な電力をリチウムイオン電池に蓄えることで、低圧受電での50kW出力の急速充電を可能としている。
<太陽電池・蓄電池併用の低圧受電型EV用急速充電 吹田SAシステム>
3)課金システム
急速充電器の設置は、EV普及に向けたインフラ整備の実証実験としてスタートしたため、これまでに設置された充電器での充電の電気料金は無料が多い。また、自治体からの要望もあり、設置者が無料でEVユーザーに一般開放しているケースも多い。しかしながら、沖縄の実証実験では、施設利用料金として一充電あたり500円を徴収し、東名高速道路でも会員制の急速充電器が有料でサービス提供され、有料化の検討も進められている。今年11月より充電網整備推進機構が会員と連携して、フェリカカードを利用して、EVユーザーから利用料を徴収するシステムを導入しており、ジャパンチャージネットワークでも有料充電サービスが開始される予定である。
EVへの急速充電がビジネスとして成立すれば、充電インフラの整備も進み、EVの普及に弾みがつくと考えられる。また、後述するV2H(Vehicle to Home)システムの販売開始により、EVは移動以外の価値を生めるようになり、消費者のEV購入意欲をさらに高めるものと考えられる。
■双方向充電・給電システム:「EVEVパワーステーション」
当社は日産自動車株式会社様とEVに搭載された大容量蓄電池を使って家庭に電力を供給する双方向充電・給電システム「EVパワーステーション」を共同開発した。EVと家庭をつなぐ世界初のV2Hシステムである。この「EVパワーステーション」は、夜間電力をEVに蓄電し、蓄電した電力を昼間に家庭で使用できるので、昼間の電力のピークカットへの貢献と同時に、安い深夜電力を契約することで電気料金の節約も期待できる。
「EVパワーステーション」の特長:
①家庭への給電機能によりEV搭載蓄電池を家庭用電力として活用し、
スマートハウスのコンセプトに添った電力利用に貢献可能
②EVへの倍速充電
③家庭の分電盤に接続するので、家庭内の電力需要すべてに供給可能
④日常生活に必要な家電製品を6kVA未満まで使用可能
⑤CHAdeMO方式の充電規格に準拠
⑥電力系統に逆潮流しないシステム構成
<EVパワーステーション>
■急速充電器の国際標準化の動き
日本は先進的なEV開発を行い、世界に先駆けて急速充電についてCHAdeMO方式の標準化を推進し、充電インフラの整備に先導的な役割を果たしてきた。国内に約1,300基、海外に約300基の急速充電器が設置され、日米欧の企業がCHAdeMO方式の急速充電器を提供している状況にある。
しかしながら、昨年秋に、欧米の自動車メーカー8社は、新たな急速充電器規格としてCOMBO方式を提案した。COMBO方式は、CHAdeMO方式では別々だった普通充電用のAC入力と急速充電用のDC入力を一体としたコネクタ方式であるが、欧州と米国ではコネクタの形状が異なる。写真は米国のCOMBO方式のコネクタと充電ガンである。なお、COMBO方式は、現時点で外形以外は詳しい仕様が公開されていない。
COMBO方式が各国のEV普及拡大にどのような影響を与えるのか、今後の自動車メーカーの動向に注意する必要がある。
COMBO米国方式 出典:SAE International
■あとがき
当社が開発した電力系統に接続される太陽光発電、蓄電池を用いた急速充電システムや充電・給電が可能なEVパワーステーション(V2Hシステム)は、機器としては第一世代である。
今後は、利用されるお客様の意見を反映した「使い勝手の良い製品」として育てて行く必要がある。特にEVパワーステーションは、スマートハウスのホームエネルギーマネージメントシステム(HEMS)との連携が重要である。
さらに、急速充電器を含めた分散型電源システムの普及のためには、電力会社と再生可能エネルギーや蓄電システムを供給する産業界に共通する課題を解決して、スマートグリッド社会の実現に努力しなければならない。
※CHAdeMO協議会ホームページより。9月7日現在。
ニチコン株式会社
2012年10月4日付 電波新聞掲載