EV用急速充電器、充電・給電器の最新技術動向

■まえがき

低炭素社会実現に向けた電気自動車(EV)の普及拡大は、世界の潮流になっている。EV普及のためには、①EVの価格、②一回の充電における走行距離、③充電インフラの整備が重要である。また、EVは搭載されているバッテリーを活用することで、平時の家庭への給電による電力料金の削減、停電時の安全安心を確保する電力供給、さらには再生可能エネルギーで発電した電力の余剰電力を吸収して電力系統の安定化が可能になるなど、これまでの自動車にはない機能で、スマートな生活をサポートする製品として注目を集めている。今回はEV用急速充電器および新たな機能を生み出す充電・給電器の最新技術について述べる。


■EV市場の概況

量産型EVの先駆けとして三菱自動車工業のi-MiEVが2009年に発売され、これに続いて日産自動車のリーフ、そしてフォルクスワーゲンや、BMW、GM、テスラなど世界の自動車メーカーがEVを発売し、これまでに世界でおよそ25万台のEVが販売されている。日本においては、経済産業省の補助制度などを含めた官民を挙げた努力にもかかわらず、普及はまだ限定的である。EVの普及が拡大しない理由の一つはEVの走行距離が短いことであり、短い走行可能距離を補うために政府が急速充電器の設置に対する補助制度を設けたにもかかわらず、設置台数が拡大しないことである。急速充電器の設置台数が拡大しない要因として、急速充電器の利用者からどのようにして充電料金を回収するかという問題があったが、課金制度が整備されようやく設置に弾みがつき始めている。 


■充電インフラビジョン

自治体が策定する「充電インフラビジョン」は、公共性を最優先して、EVユーザーが利用する基幹道路などを中心に最適な配置がなされている。
基本的には、次の3つの充電ポイントに分類して検討されている。


基礎充電においては、行政区単位でビジョンを設定し、マンション・月極駐車場などへの導入を促進している。
経路充電においては、道路交通センサスの調査をベースに、急速充電器が必要と思われる箇所への設置を優先するビジョンの他に、温泉などの観光地や道の駅等に利用者を誘導することで観光振興等を目的とした誘導的な企画的設置ビジョンも見受けられる。
目的地充電においては、テーマパークやショッピングセンターでの導入ビジョンが多く、流通業等でも積極的に急速充電器を導入する動きが出てきている。


■充電料金の課金システム

これまでに設置された急速充電器による充電料金は、実証実験設備では課金されずに無料で開放している充電ポイントが多い。しかしながら、設置場所を選ばずに拡大するには、設置者のランニングコストを賄うための課金制度が不可欠であり、急速充電器メーカーも課金のできる機種をラインアップしている。
当社においても課金が可能な機種【写真1】をラインアップしており、課金方法は、無線通信によって急速充電器と管理サーバーとを接続し、事前登録したICカードやスマートフォン・携帯電話によるQRコードの読み取りによる利用者の認証と、充電料金の課金を行う方法を採用している。課金の金額は、設置者が任意に選択できるようにしている。

【写真1】省スペース型 急速充電器 20~50kW出力課金対応タイプ

【写真1】 省スペース型 急速充電器 20~50kW出力課金対応タイプ



■双方向充電・給電システム

ニチコンは日産自動車とEVに搭載されたリチウムイオン電池を使って家庭に電力を供給するV2H(Vehicle to Home)システム「EVパワー・ステーション 標準モデル」【写真2】を2012年に市場へ導入した。この製品はEVから家庭に電力を供給する世界初のV2Hシステムである。このEVパワー・ステーションは、夜間の安価な電力でEVに充電し、その電力を昼間の時間帯にシフトして家庭用電力として使用できる機能があり、昼間は系統から購入する電力を減らすことができ、月々の電気料金の節約が可能である。【図1】
本年7月には、三菱自動車工業のi-MiEV、MINICAB-MiEV、MINICAB-MiEV TRUCKとの接続も可能となり、EVの活用ステージをさらに広げた。

【図1】EVパワー・ステーション 標準/高機能モデル システム接続図

【図1】 EVパワー・ステーション 標準/高機能モデル システム接続図



[EVパワー・ステーションの特長]

  • EV搭載バッテリーを家庭用電力として活用
  • 家庭の分電盤から家庭内の機器に給電が可能
  • 6kVA未満まで給電可能
  • 電力系統に逆潮流しないシステム構成
  • EVへの倍速充電機能(AC200V接続対比)
  • CHAdeMO協議会の充電規格に準拠

新しく開発した高機能モデルは、「利便性の向上と設置拡張性を高めること」を商品コンセプトとし、遠隔操作と運転状態や各種データの確認を容易にしたタブレット型室内リモコン、オール電化住宅などの電気使用量の多いご家庭での使用やコージェネレーション機器との併用を可能としたトランスユニット、扱いやすい新開発の軽量コネクタとスリムケーブルを標準装備しています。

【写真2】EVパワー・ステーション 標準モデル 【写真3】EVパワー・ステーション 高機能モデル

【写真2】 EVパワー・ステーション 標準モデル 【写真3】 EVパワー・ステーション 高機能モデル



■あとがき

低炭素社会を実現するために、EVの普及拡大に対する期待は大きく、海外メーカーを含めた自動車メーカー各社がEVを発売しているが、走行可能距離が短いことや高価格により普及はまだ限定的である。しかしながら、ガソリン車やディーゼル車と異なり、EVは単なる移動体でなく、V2Hシステムと組み合わせることで平時/停電時の家庭への電力供給や電力系統の安定化など新たな価値を提供できる可能性を持っている。再生可能エネルギーが急増している日本において、電力系統の安定化の方策の一つとして蓄電システムが注目されており、EVパワー・ステーションとEVによる充放電機能も注目されている。今回紹介した高機能のV2Hシステムは、コージェネレーション機器との親和性も高く、低炭素社会実現を加速できればと期待している。

ニチコン株式会社
2014年10月2日付 電波新聞掲載

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