EV用急速充電器、V2Hシステムの最新技術動向

まえがき

低炭素社会の実現に向けたEVを代表とする次世代自動車の普及拡大は地球環境保護の観点から重要なテーマとなっているが、その足取りはなかなか思うように進んでいない。ここに来てようやく国内外の代表的自動車メーカの新車種の投入が自動運転化技術と共に注目されてきている。IPCCの第5次評価報告書ではCO2の増加による気温や海面温の上昇 (図-1)と共に、世界の降雨量の増加等が報じられており、世界の気候変動や災害の増加に大きく影響していることが懸念されている中において、ますます車両の燃費の高効率化と共に電動化が急がれる所である。
EVの普及加速の条件として、走行距離の延長、充電インフラの整備、車両の低価格化が不可欠な要素といわれている。一方、再生可能エネルギーの増加に伴い電力の供給源でもある電力系統の質、量の安定化が重要な課題でもある。最近のEVの動向、充電インフラの状況およびV2Hシステムの3つの観点から最新の状況を報告する。

図-1 :陸域・海上面の気温の変化と水位の変化(IPCC第5次レポート引用)

【図-1】陸域・海上面の気温の変化と水位の変化
(IPCC第5次レポート引用)



■EV市場の動向

2014年度、世界のEV販売台数は、ようやく30万台を越えた。日産自動車株式会社は2015年末にLEAFのバッテリー容量を30 kWh に増量することを発表しており、さらに容量をUPすることで走行距離を伸ばし普及の加速を目指している。また、EVベンチャーのテスラモーターズはモデルSに続く新車種のモデル3の価格を現行の1/2に設定するなどEV普及の加速がはかられようとしている。一方、米国のZEV規制や欧・中のCAFE規制を睨んでの 世界的なPHV車の投入も活発化してきており、ようやくEV普及の波が立ち上がりの兆しを見せてきているといえる。


■充電インフラの最新情報

政府の充電インフラ整備事業の効果もあって全国の充電器は15,000基を越え、そのうち急速充電器は5,418基(6月30日現在CHAdeMO協議会HP)。自治体が策定した「充電インフラビジョン」では急速充電器で約2万基を越える推奨設置箇所が設定されたが、今年度中には約1万基に達するものと思われる。急速充電器の設置箇所として当初は、高速道路のパーキングエリアやサービスエリアを中心に短時間の補充充電を基本とした50kW(実質契約49kW以下)急速充電器が主流であったが、その他の一般設置に関しては電力契約の問題も有り、 「1需要場所2引込み」の特別措置から、単相の20、30kWの中容量が主流となっている。直近のEV市場の動向でも述べたが、今後EVの電池容量の増大化が予想され、走行距離も300~500km、電池容量が30~50kWhのEVが主力となってくることを前提として今後の充電器市場を展望すると、3つのニーズの変化が予測される。3つの変化というのは、経路充電から目的地充電への移行、大容量充電器へのニーズの拡大(100kW級)、複数台設置による充電待ちの緩和であり、今後これらの3要素をターゲットとした開発をおこなっていく。

基本として新CHAdeMO 1.01規格対応とし、今回その中でも特に「目的地充電」をターゲットとした新10kW充電器を開発し、市場導入を行ったのでその特長を紹介する。現在普通充電器が3kWで展開されているが、通常のEVの電池容量が30~50kWhとなってくると「EVの充電は基本的に家庭」となってくると予想している。滞在型の目的地充電(旅館、レジャー利用)の場合には一般的なEVで4~5時間、今後増えてくると思われるPHVの場合でも1時間以内の充電時間を想定するなど、最適な容量を検討し、ターゲットを10kWとした。 10kWあればレストランやゴルフ場などの数時間の目的地充電でも充分な容量である。すなわち3倍速充電コンセプトである。以下に新10kW急速充電器(図-2)の特長を記述する。

図-2:新CHAdeMO 1.01急速充電器

【図-2】新CHAdeMO 1.01急速充電器


1.小型省スペース:普通充電器サイズで3倍速充電、当社20/30kW品比較で約1/2サイズ250W×420D×1533H(mm)質量80/78kg(単相/3相)


2.低受電容量で複数台設置が可能(充電待ちの解消)、普通充電コンセント付き(Option)、3相、単相をラインアップ 


3.課金認証機能付き:NCS充電カードに加えてQRコードでクレジットカード対応が可能 


4.ユニット構造でメンテナンス性向上と、遠隔稼動確認で安心運用:充電状態や充電ユニットの作動状況(故障・異常)を把握 


5.遠隔設定機能:
 ・遠隔からの充電時間の設定(基本30分)
 ・遠隔課金レートの設定(分単価設定)
 ・最大充電電力の設定・充電使用実績データの収集 


6.幅広い設置場所:ショッピングモールなどの商業施設や宿泊施設、ゴルフ場、道の駅、マンションなど多用途に対応


今後は、もうひとつのニーズである大容量充電器をターゲットとした急速充電器の開発も目指していくが充電容量の増加に伴い技術的な課題もある。それは容量の増加と共に、充電器から発生する伝導ノイズや不要輻射の問題、また高調波対策などである。これら放射ノイズは電力系統や周囲の環境に害をおよぼし、場合によっては事故や災害を誘発する可能性があり、新CHAdeMO 1.01規格においてはIEC-61000 に準拠した規定が織り込まれたが、この基準をクリヤするのは容易ではない。今回の新10kWは当然この基準をクリヤしており、今後もニチコンの持つ高い高電圧制御技術で新市場に新しい急速充電器を提供し続けていきたい。


V2Hシステムシステムの最新動向

ニチコンは環境や安心・安全社会への貢献を目的として2012年に日産自動車株式会社と世界で始めてのV2H(Vehicle to Home)システム“EVパワー・ステーション”(図-3)を市場に導入した。この製品はEVへの充電だけでなくEVから家庭に電力を供給することができる世界初のV2Hシステムであり、夜間の割安な電力によってEVに蓄電し、蓄電された電力を昼間の時間帯に家庭用電力として使用することができるだけでなく、非常時にはEVを万一の非常用電源として活用できる電力供給システムと言える(図-4)。
昼間の系統からの電力消費を削減することで電力系統のピークシフトに貢献できるばかりでなく、月々の電気代の節約も可能である。太陽光発電を設置の家庭ではEVの給電による押し上げ効果で、売電量が増加することでの経済効果がさらに押し上げされる報告もある。今後EVの電池容量の増加と共に、EVの蓄電池としての活用は益々大きくなってくると見ている。

図-3:EVパワー・ステーション

【図-3】EVパワー・ステーション

~夜に蓄電/昼間に給電/昼間はPV充電~

~夜に蓄電/昼間に給電/昼間はPV充電~

~もしもの停電時、EVから給電~図-4:EVパワー・ステーション利用シーン

~もしもの停電時、EVから給電~
【図-4】EVパワー・ステーション利用シーン


[EVパワー・ステーションの特長]

  • 車載蓄電池を家庭用電力として活用してスマートハウスのコンセプトに添った電力利用に貢献
  • EVへのインテリジェント倍速充電機能(AC200V接続対比):家庭の電力使用を把握しながら契約電力を越えない範囲で上手に充電
  • 分電盤から家庭まるごと直接給電が可能:最大6kVAまで供給可能
  • タブレット型リモコンで簡単操作とHEMS連系
    (ECHONET-Lite)が可能(標準モデルはOption)。HEMSなどの外部からの遠隔操作が可能
  • 電力系統に逆潮流しない自立給電型システムで設置が簡単(無瞬停切り替え制御)

[EVパワー・ステーション 高機能モデル限定機能]

  • 家庭用燃料電池(エネファーム)と連携して、停電時も給電・給湯可能で安心
  • 軽量充電コネクタとスリムケーブルで操作性が大幅に向上


■今後について

現在、国内ではEVを直接電力系統と接続(系統連系)するには案件ごとの電力会社との個別協議が必要となっており、手続きが煩雑なことに加えて、認定された特定車両でなくては接続ができない。現在JET、CHAdeMO、EVPOSSA、JEMAなど関係諸団体の連携でEVの系統連系の仕組み造りと規格の標準化を目指している。
一方、海外でもEVを系統に接続して電力の安定化に役立てようというプロジェクトが各国で行われている。再生可能エネルギーの増大に伴う電力系統の安定化に活用しようという訳である。Californiaの電力系統の需要曲線(図-5)で示すように、太陽光発電の発電電力が系統に大きく影響しており、系統の安定運用に大きな課題を投げ掛けている。その解決手法の一つがEVの持つ電力の充放電機能であり、Californiaの米空軍基地でもV2G(Grid=電力系統)の実証実験が行われている。日本国内でも2016年から電力取引の自由化が始まろうとしており、Demand ResponseやAncillary Serviceといった概念が当たり前になる時代も近いのではないだろうか。

~夜に蓄電/昼間に給電/昼間はPV充電~

【図-5】California ISO-FAST-FACTS Report引用



■あとがき

 低炭素社会の実現にはEVの普及拡大が大きく期待される所であるが、今後太陽光発電など再生可能エネルギーの活用や分散型電源システムとの連携も不可欠な要素となってくる。加えて急速充電ネットワークの運用や移動体であるEVの利活用等、クラウドサービスを含めた各種アプリケーションサービスの情報ネットワークとの連携も不可欠であり、高度なエネルギーマネジメントシステムが必要となってくる。さらには個々の機器の小型化や高効率化が望まれる所であり、EVの普及拡大と共にV2Hシステムの進化や情報化社会の進展と共に低炭素社会の発展に貢献できるものと期待をしている。

ニチコン株式会社
2015年10月1日付 電波新聞掲載

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